英名 English Name : Pale-legged Warbler
学名 Scientific Name : Phylloscopus tenellipes
ウスリームシクイ Phylloscopus tenellipes は、スウィンホー( Swinhoe)によって、1860年に初記載された。 初記載は中国のアモイで採取された標本に基づいて行われた
(Mayr and Cottrell 1986).。日本国内で繁殖するエゾムシクイ Phylloscopus borealoides は、当初このウスリームシクイと全く同種の同一亜種として扱われるか、またはその亜種として扱われていたが、近年は通常別種として扱われる。
日本国内でも長年両分類群を、同一種として扱っていた。両種を別種として扱ったはじめての日本の出版物の一つが真木・大西(2000)であり、この中で大西敏一氏がはじめて本種(P. tenellipes)に対して、「ウスリームシクイ」の和名を新称として提唱した。本種の和名としては、「キタムシクイ」が用いられたこともあるが、ウスリームシクイの方が本種の分布を的確に表現していると考えられるため、本サイトは大西氏の提唱にしたがって、本種の和名をウスリームシクイとした。
多くの出版物、例えば日本鳥類目録改訂第6版(日本鳥類目録編集委員会 2000)は、日本における本種の記録を記述していないが、本種は毎年日本を通過している可能性がある。日本における本種の分布および渡りの時期についてはほとんど知られていない。また、本種とエゾムシクイとの野外での識別ポイントも、囀り以外については、ほとんど判っていない。
文献:
1) 日本鳥類目録編集委員会(編). 2000. 日本鳥類目録改定第6版. 日本鳥学会,
帯広.
2) 真木広造・大西敏一 2000. 日本の野鳥. 平凡社, 東京.
3) Mayr, E. & Cottrell, G. W.
(eds.) 1986. Check-List of Birds of the World. Vol.XI. Museum of
Comparative Zoology, Cambrirdge.
私は、重要な示唆と情報を寄せてくださった以下の方々に深謝の意を表する(敬称略、アルファベット順)。
Desmond Allen、Mark Brazil,、五百澤日丸、Bjorn Johansson,、Nick Lethaby、Nial
Moores, 中道暁美, 大西敏一、 Martin Williams。
1. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 ウスリームシクイとエゾムシクイの外見は互いに非常に似ている。そのため両種の野外識別は非常に困難である。しかしながら、両種のさえずりは非常に異なっており、野外識別の際に重要なポイントとなる。 ウスリームシクイのさえずりは細くて金属的な、 シーシーシーシシシ・・・」 または フィリフィリフィリ」 と続くもので、後半にテンポが早くなる。それに対し、エゾムシクイのさえずりは日本では良く知られているように、単純な三拍子の「ヒー、ツー、キー」というものであり、ウスリームシクイとは全く異なる。 ウスリームシクイのさえずりはエゾムシクイより、むしろマキノセンニュウ Locustella lanceolata,やヤブサメ Urosephena squameiceps, あるいはニシボネリームシクイ Phylloscopus bonelli.に似ていると言われる。私の耳には、ヤブサメは連想されず、むしろマキノセンニュウの方が似ているように思えた。 私は2005年5月5日に長崎県小値賀島において、幸運にも本種を発見し、観察することができた。この時のさえずりは2つのパターンがあり、一つはやや低い「フィリフィリフィリ・・・」と聞こえるもので、もう一つはやや高い「シリシリシリ・・・」と聞こえるものであった。また、時に細くて鈴を鳴らすような「チン、チン」という声でさえずりが始まることもあった。地鳴きは「ピッ」と聞こえるもので、エゾムシクイと非常に似ていたが、わずかに高くて弱かったかもしれない。 嘴先端の淡色部はエゾムシクイより不明瞭かもしれない。 2009年10月25日追記: 日本鳥学会2009年度大会講演要旨集の「エゾムシクイPhyllsocopus borealoidesとウスリームシクイP. tenellipesの識別(茂田良光・。齋藤武馬・岡部海都)」に、 「ウスリームシクイの地鳴きは「チッ、チッ」または「ピ、ピ、・・・」と聞こえ、」 とあるが、発表者の茂田良光氏にお聞きしたところでは、エゾムシクイと本種の地鳴きはかなり似ているとのことであった。また、大西敏一氏から 「「チッ」とは聞こえない」 との私信をいただいている。ウスリームシクイの同定には、耳で聞いただけの地鳴きは使用できない(声紋をとれば分かるかもしれないが、現在のところ不明)。 |
|
2. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 背中はエゾムシクイより褐色みに富むようであるが、頭頂と背の色のコントラストは通常はエゾムシクイより弱いようである。しかし、これらの特徴は異なる光線下や個体差によって、変化して見える可能性がある。 眉斑は長くて白っぽい。また、過眼線は明瞭で黒っぽい。これらの特徴はエゾムシクイとほとんど同じである。 写真の鳥では、下面は脇腹が淡褐色に見えるほかはほとんど白く見える。 |
|
3. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 脚の色彩はエゾムシクイに酷似する。しかし、本種の脚はエゾムシクイよりわずかに細いかもしれない。これは、エゾムシクイが地上付近を移動することが多いのに対し、本種はより高い枝を移動することによるのかもしれない。 |
|
4. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 この写真では頭頂は背より暗色であり、コントラストがある。しかし野外での観察では、頭頂と背のコントラストはもっと不明瞭に見えた。 次列風切に対する初列風切の突出は、おそらくエゾムシクイより短い。また、野外で静止時、本種の初列風切は5枚か6枚しか見えないのに対し、エゾムシクイでは7枚か8枚見える。 |
|
5. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 この写真では、頭頂は背より暗色に見える。 |
|
6. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 この写真では、頭頂と背のコントラストは上に掲げた写真より不鮮明に見える。 腰はわすかに赤褐色みを帯びるが、この特徴はおそらくエゾムシクイとの識別には役立たない。 |
|
7. 2005年5月5日 長崎県北松浦郡小値賀島 上の写真の個体が生息していた場所の環境写真。ややまばらであまり太くないクロマツ林の林床にブッシュが形成されており、薄暗かった。 |