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オオセッカ Japanese Name: Oo Sekka

英名 : Japanese Marsh Warbler or Japanese Swamp Warbler
学名 : Megalurus pryeri

分類
 オオセッカはSeebohmによって、1884年にはじめて記載された。この元になった標本については、"Tokio, not very far from Yokohama"となっており、東京で採取されたものと考えられる(Mayr and Cottrell 1986、永田 1997)。ただし、黒田(1934)によると、正基準標本(一般的にタイプ標本と呼ばれる)は、東京(横浜から遠からず)で1883?に採取されたもので、同じ1883年?には、横浜付近で2個体が採取されている。これら3個体はすべてPryerによって採取されており、本種の学名は、採集者にちなんだものと考えられる。さらに黒田(1934)によると、正基準標本と横浜で採取された1個体は、Seebohm Collectionに所在しており、横浜で採取されたもう1個体は、大英博物館に所在があるとされている。
 本種をウグイス科SYLVIIDAEの中の1種とすることは、現在では世界的に一般的であるが、どの属に所属するかについては、大きく2説がある。ひとつはMegalurusに属するとするもので、Mayr and Cottrell (1986)、Dickinson(2003)、Clements(2007)などがこの説にしたがっている。一方、Baker(1997)や日本鳥学会(2000)は、センニュウ属Locustellaに属する説にしたがっている。亜種は2亜種あるとされており、ひとつは基亜種オオセッカM. p. pryeri、もうひとつは亜種オナガオオセッカM. p. sinensisであり、前者は日本の本州で繁殖し、後者はユーラシア大陸東部の南ウスリー、南満州、中国河北省で繁殖する(Mayr and Cottrell 1986、Baker 1997、永田 1997、日本鳥学会 2000)。時代的な経緯をみると、Seebohmによって初記載された時は、現在も多くの文献で使用されているMegalusrus属に入れられており、その後、Bracypterus属に分類され、さらに上記のようにセンニュウ属Locustellaに含まれるとする説が出た(永田 1997)。

日本国内で記録されている亜種と国内での分布の状況
 日本で記録されている亜種は、亜種オオセッカM. p. pryeriだけとされている(Mayr and Cottrell 1986、Baker 1997、永田 1997、日本鳥学会 2000、Dickinson 2003、Clements 2007)。
 本種は、永田(1997)によると、繁殖がはじめて確認されたのは、1936年のことであり(宮城県蒲生)、1883?年(おそらくそれより前)にはじめて発見されてから、50年以上も繁殖地がいっさい不明の謎の鳥であった。以下、永田(1997)の記述に基づく。蒲生の繁殖個体群は、1938年に消滅し、その後再び営巣地が発見されるまで30年以上の歳月が流れ、1972年に津軽半島の湿原で営巣中のオオセッカが確認された。さらに、その後青森県内で繁殖地がいくつか発見された。1997年現在において、繁殖期の生息が確認されているのは、秋田県八郎潟、青森県屏風山地域・岩木川河口・高瀬川河口・仏沼周辺、利根川下流域、茨城県霞ケ浦浮嶋湿原の7か所である。日本全国に生息する個体数は、1000程度と推定されている。
 越冬生態はほとんど知られていない。その理由は、冬期のオオセッカはヨシ原に潜み、観察しづらいためである。このため、冬期の分布域の断片的な情報しか得られていない。標識調査や観察記録からは、太平洋側の宮城県から香川県にかけての広い範囲の河川敷や沼沢地のヨシ原で越冬されていることが予想されているものの、越冬期の生態はほとんどわかっていない(以上、永田 1997による)。
 Fujita and Nagata(1997)によると、仏沼干拓地で行った調査からオオセッカのオスが生息していた場所の植生は、生息していない場所の植生と比べ、とくにスゲ類(Carex spp.)の密度が高く、ヨシの密度が低かった。そのため、オオセッカの生息にはスゲ類の存在が重要な役割を果たしており、スゲ類を含む植生を維持することが、保全に重要であることが示唆されている。
 さらに、Nagata and Yoshida(1997)の霞ケ浦のオオセッカの越冬生態の調査報告によると、28.1+-14.8個体が、霞ヶ浦湖岸の清明川河口西岸で越冬していることが推定された。いずれにしても、本州の冬期の分布や生態は不明の点が多い。

文献
黒田長禮 1934. 日本特有オホセッカの採集記. 鳥8(38): 223-228.
Baker, K. 1997. Warblers of Europe, Asia and North Africa. Christopher Helm, London.
永田尚志 1997. オオセッカの現状と保全への提言. 山階鳥類研究所研究報告 29: 27-42.
Fujita, G. and Nagata, H. 1997. Preferable Habitat Characteristics of Male Japanese Marsh Warbler Megalurus pryeri in Breeding Season at Hotoke-numa Reclaimed Area, Northern Honshu, Japan. J. Yamashina Inst. Ornithol. 29: 43-49.
Nagata, H. and Yoshida, H. 1997. Some Notes on the Wintering Ecology of Japanese Marsh Warblers, Megalurus pryeri, at Two Sites around Lake Kasumigaura. J. Yamashina Inst. Ornithol. 29: 50-56.
Clements J. F. 2007. The Clements Checklist of Birds of the World 6th edition. Cornell University, New York.
Dickinson, C. (ed.) 2003. The Howard and Moore Complete Checklist of the Birds of the World, 3rd edition. Christopher Helm, London.
Mayr, R. & Cottrell, G. W. (eds.) 1986. Check-list of the Birds of the World. Vol.XI. Museum of Comparative Zoology, Cambrirdge.
日本鳥学会 2000. 日本鳥類目録改訂第6版. 日本鳥学会, 帯広.
 

1. 1997年7月3日
茨城県利根川下流域
撮影:渡部良樹

本種は、高密度で繁殖している生息地においては、きわめて多く、優占第一位の種となっていることも多い。ただし、生息環境の選択条件は厳しいようであり、同じ地域のヨシ原であっても、場所によってかなり密度が異なる。繁殖期の写真は多くの写真図鑑やネット上で見ることができる。
尾が長めで、くさび形であること、上面が茶褐色である点に注意。
2. 1997年7月3日
茨城県利根川下流域
撮影:渡部良樹

飛翔しながら囀るオオセッカ。この日のフィールドノートの記述を見ると、オオセッカは、ヨシの先で何度かさえずった後に、さえずり飛翔を行っており、連続して2回以上さえずり飛翔を行うことはなかった。営巣地では繁殖期に多数が目立つ場所でさえずっているので、観察することは非常に簡単である。
尾がくさび形であることがよくわかる。背に黒っぽい縦斑があることも一つの識別点である。さえずりは「チュルチュルチュル。。。」と続く声であり、非常に特徴的である。誤認のおそれのあるセッカは「ヒッ、ヒッ、ヒッ。。。チャッ、チャッ、チャッ。。。」と明らかに異なる声でさえずるのでわかる。セッカも飛びながら囀ったり、草にとまって囀ることがある。
3. 1997年7月3日
茨城県利根川下流域
撮影:渡部良樹

囀り飛翔ののちに、ヨシに飛び込もうとしているオオセッカ。
4. 2009年2月15日
茨城県利根川下流域
撮影:渡部良樹

冬期に撮影したオオセッカ。私は冬期に撮影された本種のカラー写真を見たことがなく、この写真はおそらく貴重なものと思われる。「日本の鳥類と其生態」(山階芳麿 1941)によると、本種の春の換羽は3月中で、全身を換羽するので、この写真の個体は、褪色していると考えられる。目先に暗色部がないことに注意。
類似環境にいて、誤認のおそれのあるセッカの顔は、嘴のつけね付近から目先付近のあたりに暗色部分があるので、わかる。オオセッカの顔は目より前に明瞭な暗色の部分が見えない。これは季節を通じて同じである。
5. 2009年2月15日
茨城県利根川下流域
撮影:渡部良樹

冬期の本種の上面からの写真。冬期、私はヨシが倒れて水にひたっている場所で見ることが多かったが、この写真を撮影した時にはそのような場所ではなく、細いヨシが密生している場所に多数がいた。ただし地鳴きがわからないと、見つけることは非常に困難である。この写真では、背の縦斑がよくわかる。また、目先に暗色部分がないこともわかる。写真図鑑のセッカと比べるとよくわかる。
おそらく冬期の生態や越冬地などが不明なのは、発見が困難と思われているためと思うが、地鳴きがわかれば、見つけだすことはそれほど困難ではなく、私は過去に冬期、東京都内、千葉県内、茨城県内のヨし原で観察したことがある。また、わたりの時期の春期に静岡県の池のヨシ原でさえずっている個体を確認した事もあり、ある程度広いヨシ原が広がっている場所で注意していると、見つかる可能性は高い。
地鳴きは、「チャッ、チャッ」または「ケッ、ケッ」とも聞こえる声で、「チュルチュルチュル。。。」と連続して鳴く事もある。

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