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2009年10月25日 掲載 2022年3月20日改訂

ビンズイ Anths hodgsoniとヨーロッパビンズイ A. trivialis

1.ビンズイ Anthus hodgsoni

1)分類

本種はインドのベンガルの標本に基づき、Richmondが1907年に記載した(Mayr & Greenway 1960)。この記載はBlackwelder(1907)に出ていて、記載時の英名はIndian Tree-pipitである。しかし本種はRichmondが記載するより前から、存在が知られていた。Jerdon (1863) は、Anthus maculatus を記載しているが、これは無効名となった(Mayr & Greenway 1960)。ここでも英名は"Indian Tree-pipit"である。種小名のhodgosniは、Brian Houghton Hodgson(1800または1801-1894)に献名したものと思われる。Jerdon (1863) やBlackwelder (1907) にもHodgsonの名前が出てくるが、Hodgsonが本種の記載にどのように関わったのか、私はまだ十分に調査できていない。おそらく標本を採取したのがHodgsonだったのではないかと思っているが、はっきりしない。

そのほか、Oriental Tree Pipitという英名もある(Austin & Kuroda 1953)。

本種には通常、A. h. hodgsoniA. h. yunnanensisの2つの亜種が認められる(Svensson 1992; Alström et al. 2003; Dickinson 2003; Tyler. 2004; Clements 2007; del Hoyo & Collar 2016; Gill et al. 2021)。前者の亜種和名はビンズイ、後者の亜種和名はカラフトビンズイである(日本鳥学会 2000)。ただし、後者の最初の亜種和名は、コバシビンズイだった(日本鳥学会 1932; 山階 1934)。

A. h. yunnanensisは内田と黒田により、1916年に記載された(Uchida & Kuroda 1916; 山階 1934; del Hoyo et al. 2004)。つまり亜種カラフトビンズイは、日本人が記載した亜種である。

本亜種は後述するように日本国内で記録があるが、記載のもととなった標本は日本国内で採集されたものではない。Uchida & Kuroda (1916) は、Mongtz(雲南省蒙自)で折居彪二郎が採取した6羽の雄と2羽の雌に基づいて、本亜種を記載している。タイプ標本(ホロタイプ)は雲南省蒙自で1911年2月18日に採取された雌成鳥であり、黒田家が保管していたが(山階 1934)、これの現在の所在は、私には分からない。山階鳥類研究所にはないようである。戦災で焼失したのかもしれない。

標本の採取時期は、1月15日、2月18日、3月12日、4月22日、11月20日(以上雄)、2月18日、10月26日(以上雌)である。つまり、ほとんど非繁殖期のものである。記載時には、日本国内(Suruga、Norikura)で採取されたビンズイと比較されている。つまり、海外の亜種ビンズイの標本と比較したわけではない。比較対象となった標本の採取時期は書かれていないので、日本国内の繁殖鳥であるかどうかは、Uchida & Kuroda (1916) の記述からは不明であるが、Surugaは駿河、Norikuraは乗鞍だろうから、前者は富士山、後者は乗鞍岳の繁殖個体だったのかもしれない。内田清之助と黒田長禮が亜種カラフトビンズイを記載する際、その標本を本州のビンズイの標本と比較して、それとは異なると判断したことは、記憶しておきたい。

山階(1934)によれば、HartertはA. h. yunnanensisA. h. hodgsoniの(ジュニア)シノニムとし、サハリンで繁殖するものを新亜種A. h. inopinatusとした。これに対して山階芳麿は、山階芳麿と鷹司信輔、黒田長禮所有の標本とを合わせ、日本全土、雲南、シャム(現在のタイ)の標本82体を比較研究し、本種をA. h. yunnanensisA. h. hodgsoniの2亜種とした。上記のように、これは現在でも一般的な分類である。

この2つの亜種のほかに、亜種A. h. berezowskiiを認め、3亜種とする説もある(山階 1934; Mayr & Greenway 1960; Clements 2000)。この亜種は、Sarudny (1909)がKansu(中国甘粛省)南西部で採取された標本に基づいて記載した(Mayr & Greenway 1960; この文献ではSarudnyをZarudnyと記述している)。Mayr & Greenway (1960)は、この亜種を掲載しているものの、疑問符を付けている。Hall(1961)は、RipleyがA. h. berezowskiiとした標本を再調査したうえで、この亜種を亜種ビンズイと区別する根拠は無いとした(一部の標本はウスベニタヒバリ A. roseatusの誤同定だった)。Svensson(1992)とSvenssonら(2011)は、チベット南東部とSikang(西康省)の個体(亜種berezowskii)は、上面の黒い縦斑が太く、脇と下尾筒の赤褐色味のあるバフ色が濃い傾向があるものの、現段階では亜種ビンズイに含める方が良いとした。Svensson(1992)とSvenssonら(2011)が述べているチベット南東部と西康省の個体は、産地から見て上記Ripleyの標本の可能性が高い。Alström et al.(2003)も、この亜種と亜種ビンズイとの区別はできなかったと述べた。このように本亜種は通常、亜種ビンズイに含められることが多い。

なお、亜種A. maculatus brevirostrisが、内田と黒田により記載されたが、これは亜種ビンズイと同じものである(山階 1934)。この亜種の和名は「コバシキヒバリ(「コバシビンズイ」ではない)である。内田清之助の「日本鳥類図説続編 初版」にこの亜種が出ているそうだが、私はこれを読んでいない。この亜種は現在では全く認められておらず、どのような特徴に基づいて記載されたのか、私は知らない。

2)亜種の識別

Svensson(1992)やSvensson et al.(2011)は、亜種カラフトビンズイと亜種ビンズイの識別について、「ほとんどの個体は両亜種の標本が手元になくても亜種の同定が可能である」と、記述している。しかし、日本国内でビンズイを観察すると、亜種の識別は必ずしも容易ではない。以下に、亜種の識別点について述べるが、「4)日本国内での分布」では、日本列島のビンズイの亜種識別と個体変異について、さらに詳細に述べることにする。

亜種カラフトビンズイを記載したUchida & Kuroda (1916) は、亜種ビンズイとの相違点(前述のとおり、日本産の標本と比較している)として、嘴が短いことを記述しているが、他の相違点については記述していない。日本鳥学会 (1932)や山階(1934)は、当初この亜種の和名をコバシビンズイとしていたが、それはこの記述に基づいたものだろう。しかし、山階(1934)は、原記載の嘴長が短いという記述については「認めがたい」とし、本亜種は冬羽の色が暗色であると記述している。ただし、「訂正及び補遺」の中では、逆に亜種ビンズイに似るが背面の色が淡く、下面の地色も淡く、腹は殆ど白いとしていて、冬羽が暗色であることを書いていない。

山階(1934)(「訂正及び補遺」)は、亜種カラフトビンズイと亜種ビンズイの相違点として、次のことを挙げている。

  • 亜種カラフトビンズイは、亜種ビンズイよりも上面の色が淡い。
  • 亜種カラフトビンズイは、亜種ビンズイよりも下面の地色が淡く、特に腹はほとんど白い。
  • 亜種カラフトビンズイは、亜種ビンズイよりも下面の縦斑が細く、かつ数が少なく、腹に縦斑の無い個体もいる。
  • 上記の相違点は冬羽でのものであるが、夏羽でも冬羽程顕著ではないが、同様の傾向が見られる。

Svensson(1992)とSvensson et al.(2011)は、亜種カラフトビンズイと亜種ビンズイの相違点として、次のことを挙げている。

  • 亜種ビンズイでは上面では頭上に目立つ縦斑があり、上背に明瞭な暗色縦斑がある。亜種カラフトビンズイでは上背と背はほとんど縦斑が無いか、かなり細い縦斑があるだけである。
  • 亜種ビンズイでは翼がやや短めで、より丸みがある。
  • P6(内側から6枚目の初列風切)の先端と翼端との長さは、亜種ビンズイでは1mm以内だが、亜種カラフトビンズイでは1-3mmである。ただし、Alström et al. (2003)は、この相違は非常にわずかであるとしている。Alström et al. (2003)に出ている計測値では、P6先端と翼先端の間は、亜種ビンズイで0-2.5mm、亜種カラフトビンズイで1-2.5mmなので、この値が1mm未満であれば亜種ビンズイの可能性が高いと判断できるが、それ以外の値では亜種は識別できそうにない。

また、Svensson(1992)とSvensson et al.(2011)は、日本の個体は両亜種の中間型であると言われると記述しているが、北海道と本州のどちらの個体を指しているのか、あるいは両方を指しているのか、分からない。

Alström et al. (2003)は、亜種カラフトビンズイと亜種ビンズイの相違点として、次のことを挙げている。

  • 頭頂中央部や特に背、肩羽の縦斑が亜種カラフトビンズイよりも亜種ビンズイの方がより大きく、背と肩羽はほとんどヨーロッパビンズイと同じくらい大きいものがいるかもしれないが、近距離ではヨーロッパビンズイより縦斑が細くて薄いことが分かる。ただし、亜種ビンズイの分布域の全てにおいて、亜種カラフトビンズイに比較して縦斑がわずかに明瞭な程度の個体も、存在する。
  • 亜種ビンズイではカラフトビンズイとは異なり、背の両側の縦斑はわずかに淡いことがあり、暗色の縦斑をより際立たせている。
  • 胸の縦斑は、亜種カラフトビンズイよりも平均的に亜種ビンズイの方が太い。非常に大きな縦斑は、亜種カラフトビンズイよりも亜種ビンズイで普通である。また、亜種ビンズイの胸の縦斑は、平均的に腹にまで達している。
  • 亜種ビンズイでは脇は通常、ムネアカタヒバリのように、縦斑が大きく、亜種カラフトビンズイやヨーロッパビンズイとは異なる。ただし、亜種ビンズイの分布域全域を通じて、脇の縦斑が細い個体も少数存在する。
  • 耳羽の暗色斑は、亜種カラフトビンズイよりも亜種ビンズイの方が平均的に大きく、より明瞭である。
  • 初列風切の突出は亜種ビンズイでは非常に短く、平均的に亜種カラフトビンズイよりも短い。
  • 亜種ビンズイの方が亜種カラフトビンズイよりも翼がわずかに短く、より丸い。

Shirihai & Svensson (2018)は、亜種カラフトビンズイと亜種ビンズイの相違点として、次のことを挙げている。

  • 亜種カラフトビンズイでは上面の縦斑が穏やかで、特に新鮮な羽衣でその傾向がある。縦斑は頭頂で最も顕著だが、地色がやや鈍いオリーブ味のある灰色で、やはりやや穏やか。
  • 一方、亜種ビンズイでは頭頂、上背、背、肩羽の縦斑がより顕著である。ただし、やや変異があり、相違は常に明確なわけではない。
  • 亜種ビンズイの頭頂の太くて黒い縦斑は、やや淡い褐色味のあるオリーブ色の地色により、しばしば際立って見える。
  • 亜種ビンズイの胸の縦斑は、より明瞭で、時々非常に大きいしみ状になり、腹上部にまで達する。

Canbell(2013)は、アラブ首長国連邦での亜種ビンズイの記録を報告している。アラブ首長国連邦ではビンズイは毎年記録されるものの珍しい鳥で、大部分は亜種カラフトビンズイだが、2008年1月以降に亜種ビンズイの特徴を示すものが3回記録された。最新の亜種ビンズイの記録は2013年11月3日にアブダビで得られたもので、写真撮影もされている。この記録では、亜種ビンズイは3羽のヨーロッパビンズイと一緒にいて、非常に近距離にいたにもかかわらず、経験豊富な2人のバーダーはすぐにはこれを識別できなかった。それは亜種ビンズイをカラフトビンズイから区別するための特徴が、ビンズイよりもむしろヨーロッパビンズイに近い外見に見えるためでだった。その特徴とは、以下のようなものである。

  • 背や肩羽の縦斑は非常にヘビーで、亜種カラフトビンズイに良く見られる、痕跡的な縦斑だけの比較的滑らかな上面とは、かなり異なっている。
  • 額と頭頂には強く均等な縦斑があり、その縦斑はしっかりとした黒色で、頭頂まで伸びている。このため、一般的に亜種カラフトビンズイとヨーロッパビンズイとを識別するために確実な特徴とされている、眉斑の上の黒色の強い頭側線がかなり目立たなくなる。
  • 亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイとを区別する最後の特徴は、脇と腹にやや太い縦斑があることだが、この特徴は上記2つの特徴よりも変化や重複が多いようなので、決定的ではない。

ただし、上面の縦斑の程度と強さは、摩耗によって(あるいはおそらく個体差によっても)大きく変化し、全てのビンズイが2亜種のどちらかに分類できるわけではない、としている。とは言うものの、一部の亜種ビンズイは特徴が良く目立ち、それ以外の個体でも少なくとも新しい羽衣であれば、注意深く観察することにより識別可能である。

このCanbell(2013)には、両亜種の写真が出ているので、参考になる。本ページ下の「文献」で、この文献のPDFファイルに、リンクを張っている。

以上に記した各文献の記述を元に、亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイの識別点をまとめると、次のようになる。

  • 体上面(頭頂から背、肩羽)の暗色の縦斑は、亜種ビンズイではより大きく明瞭である。亜種カラフトビンズイでは上面の縦斑は頭頂で最も顕著であるが、全体に細くて不明瞭で痕跡的であり、特に新鮮な羽毛でその傾向が強い。ただし、亜種ビンズイであっても摩耗あるいは個体差により、上面の縦斑が不明瞭に見える場合もあるが、注意すれば識別可能なことが多い。これについては、「4)日本国内での分布」でも触れる。
  • 頭頂の暗色縦斑は、亜種ビンズイでは額から頭頂、後頸上部に至るまで、均等にしっかりとした黒色で、地色がやや淡い褐色味のあるオリーブ色なので、全体に良く目立つ。このため亜種カラフトビンズイでは眉斑の直上の頭側線が特に目立つのに対して、亜種ビンズイでは頭側線が目立たない(頭側線以外の縦斑も明瞭である)。
  • 胸の縦斑は亜種ビンズイの方が、平均的にカラフトビンズイよりも太い。この縦斑は時に非常に大きなしみ状になり、腹上部にまで達することがある。
  • 脇の縦斑は亜種ビンズイでは太く、亜種カラフトビンズイでは細い。ただし、亜種ビンズイであっても脇の縦斑が細い個体がいるので、決定的ではない。
  • 耳羽の後端の暗色斑は、亜種ビンズイの方が平均的により大きくて明瞭である。
  • 初列風切の突出は亜種ビンズイでは非常に短く、平均的に亜種カラフトビンズイよりも短い。これについては、「4)日本国内での分布」でも触れる。
  • 亜種ビンズイの方が、亜種カラフトビンズイよりも翼がわずかに短く、より丸い。
3)分布

Tyler(2004)によれば、上記2亜種の分布は以下のとおりである。

  • 亜種ビンズイ A. h. hodgsoni:ヒマラヤ(インドの東部から北西部)から東は中国中部(チベット南部と、青海北東部、内モンゴル南部、山西南部から雲南と四川まで)、朝鮮北部、日本(本州南部から中部)で繁殖し、アジア南部と南東部で越冬する。
  • 亜種カラフトビンズイ A. h. yunnanensis:ロシア北西部(ペチョラ川中流の西、シベリア北西部、アルタイ)から東はカムチャッカ、サハリン、千島列島、南はモンゴル北部、中国北東部(南は少なくとも遼寧)、日本北部(北海道)で繁殖し、アジア南部と南東部で越冬する。

このように2亜種に分けた場合、おおざっぱに言えば、亜種ビンズイが南方、亜種カラフトビンズイが北方で繁殖する。Alström et al.(2003)の分布図では、両亜種は隔離分布していて、両亜種の繁殖分布域の接触地はない。

Alström et al.(2003)によれば、本種は中国南部、台湾、フィリピン、ボルネオ北部とインドシナからインド亜大陸にかけての地域で越冬する。亜種カラフトビンズイの越冬域は本種越冬域の全域に及び、亜種ビンズイの越冬域は中国南部、台湾、日本南部、フィリピン、インド亜大陸である。しかしRasmussen & Anderton(2012)によれば、亜種ビンズイのインド半島での生息には検証が必要であり、アフガニスタンでの生息や繁殖は疑わしく、亜種カラフトビンズイはパキスタンを除くインド亜大陸で越冬するとしている。

亜種A. h. berezowskiiは上述のとおり、現在では認めないことが多いが、この亜種を認めるClements(2000)によれば、この亜種の分布域は以下のとおりである。

  • 亜種A. h. berezowskii:中国西部(新疆ウイグルからチベット南東部と雲南)で繫殖し、インドで越冬する。

なお、亜種カラフトビンズイの学名はA. h. yunnanensisであり、雲南で繁殖するものはこの亜種であるように思われそうだが、上述のように、雲南で繁殖するものは亜種ビンズイA. h hodgsoniである。Uchida & Kuroda (1916) が記載に基づいた標本の採取時期(上述)から考えると、雲南を移動または越冬している個体に基づいて記載されている。山階(1934)によれば、当初A. h. yunnanensisは雲南で繁殖すると考えられていたが、そののちに誤りであるとされ、雲南で繁殖するものは亜種ビンズイA. hodgsoni hodgsoniとされた。Alström et al.(2003)の分布図からも雲南で繁殖するものは亜種ビンズイである。

4)日本国内での分布

日本国内の亜種分類と分布は、以前からやや混乱していた。

山階(1934)の本文によれば、四川省と本州とを通じる線より北で繁殖するビンズイは、A. h. berezowskiiで、この亜種の和名がビンズイであったが、この文献の「訂正及び増補」では亜種ビンズイの学名はA. h. hodgsoniとなっている。また、本州で繁殖するものは亜種ビンズイ、北海道で繁殖するものは亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイとの中間の性質を有するとしている。

Austin & Kuroda(1953)は、ほぼ同様の主張で、本州の繁殖個体群を亜種ビンズイとし、北海道の繫殖個体群を亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイの中間的なものであるが亜種ビンズイに近いとしている。また、真の亜種カラフトビンズイは、コリマからトムスクまでのシベリア、南はアルタイ、バイカル、トランスバイカリア、アムール、ウスリー、カムチャッカからサハリンの沿岸部、千島で繫殖し、本州と朝鮮の亜種ビンズイに比べて上面はより淡色で、下面の縦斑はより細い、としている。つまり本州の繁殖個体を、亜種カラフトビンズイと明白に区別している。

Hall(1961)によると、日本で繁殖する個体群は、以下のとおりである。

「日本の繁殖個体群は、両亜種のどちらにも当てはまらず、分類が難しい。亜種ビンズイにしては縦斑が大きくないが、亜種カラフトビンズイよりは亜種ビンズイに近い。嘴は平均的に他の個体群より長く、尾は短い。翼は通常、亜種カラフトビンズイに似ていて、亜種ビンズイより尖っている。これらの特徴は些細なものであり、同定には役立たないが、台湾やフィリピンで越冬する個体のほとんどが、日本やインドシナの個体の一部と同様に、日本の繁殖個体群に属することを示している。これらの個体は亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイの中間的なものとして記述されることがあるが、形態的にも地理的にも中間的な鳥ではなく、むしろ亜種ビンズイの非典型的な個体群とする方が良いだろう。日本の夏の標本、日本・台湾・フィリピンの冬の標本は、サイズや色彩において、亜種カラフトビンズイとは異なる。」

なお、Hallが調査した日本産標本がどこで採取されたものであるかは、明記されていない。

より近年の文献では、日本で繁殖するビンズイの亜種は、以下のようになっている。

  • Dickinson(2003)、Tyler(2004)、del Hoyo & Collar(2016)、Tytler(2020)、Gill et al.(2021):北海道は亜種カラフトビンズイ、本州は亜種ビンズイ。Gill et al.(2021)は北海道と本州と書いているわけではなく、日本北部に亜種カラフトビンズイ、日本中部に亜種ビンズイと書いている。
  • Mayr & Greenway(1960)、Alström et al.(2003):北海道は亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイの中間的なもの、本州は亜種ビンズイ。
  • 日本鳥学会(2000)、日本鳥学会(2012):全て亜種ビンズイ。

上記の日本鳥学会(2000)、日本鳥学会(2012)、Alström et al.(2003)の記述について、さらに補足する。

Morioka(2000)(この文献は日本鳥学会(2000)に収録されている)によると、日本鳥学会(1942)と日本鳥学会(1958)は北海道のものは2つの亜種の中間的なものではなく、北海道とサハリン、千島列島の個体群を亜種カラフトビンズイ、本州と朝鮮のものを亜種ビンズイとみなした。しかし、日本とサハリン、その他のアジア大陸の標本を再検討したところ、北海道と南サハリンの繁殖鳥は本州のものと区別ができず、亜種ビンズイに属するものである。したがって、日本鳥学会(2010)では、日本で繁殖するビンズイを全て亜種ビンズイとしている。日本鳥学会(2012)もこの考えを踏襲し、北海道のものも含めて、日本で繁殖するビンズイを全て亜種ビンズイとし、北海道、南千島、本州北部で夏鳥(migrant breeder)で、本州中・南西部、四国で留鳥(resident breeder)であるとした。

Alström et al.(2003)は、多くの文献のさまざまな主張を引用しながらも、最終的には本州と四国のものを、亜種ビンズイとしている。北海道にものについては明確に記述していないが、分布図では、北海道を両亜種の中間的な地域としている。

以上のように、現在では本州、四国で繫殖するビンズイは亜種ビンズイとするのが普通である。一方、北海道で繁殖するビンズイの亜種については、1)亜種カラフトビンズイ、2)亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイの中間的なもの、3)亜種ビンズイ、の3つの説がある。

なお、今村・光永(2004)は、2002年8月に九州の阿蘇高岳での繁殖確認を報告している。この繁殖個体は亜種を同定されていないが、既知の分布域から考えると、亜種ビンズイの可能性が高い。

亜種ビンズイの日本国内での越冬地については、日本鳥学会(2012)は、本州中・南部、隠岐、見島、四国、九州、対馬、屋久島、種子島、伊豆諸島、トカラ列島、奄美諸島、琉球諸島としてる。

また、亜種カラフトビンズイについては、日本鳥学会(2012)は、北海道でirregular visitor、本州(山形、新潟)でaccidental visitor、九州(佐賀)で冬鳥としている。ただ、記録されている都道府県があまりに少なく、私は調査不足のように感じる。後述するように、ヨーロッパビンズイの方が記録されている都道府県がずっと多いが、これは分布から考えると、不自然である。

ところで、深井(2010)は、カムチャッカでの標識調査結果を元に、カムチャッカで捕獲された個体を日本で繁殖する個体と識別することはできず、花田(2010)を引用しながらカムチャッカから日本にかけて分布する本種の亜種については再検討する必要がある、と指摘した。私は花田(2010)を参照していないが、同じ内容がインターネット上に公開されており(花田行博 http://birdbanding-assn.jp/J04_convention/2010/2010hanada_binzui.htm)、そこでは、Alström et al.(2003)に掲載されている図や写真の亜種ビンズイ体上面の縦斑と比較して、「日本に生息するビンズイは全て亜種カラフトビンズイである」と主張されている。

しかしながら、Alström et al.(2003)に掲載されている亜種ビンズイの写真は1枚だけであり、この亜種の特徴が顕著に表れた個体を撮影した可能性を否定できない。なぜならば、「2)亜種の識別」で述べたように、亜種ビンズイの体上面の縦斑や脇の縦斑には変異があり、細くて不明瞭に見える場合もあるからである(Alström et al.(2003)も、このことを明記していることに注目)。Canbell(2013)に掲載された亜種ビンズイの写真は、Alström et al.(2003)に掲載された亜種ビンズイの写真より上面の縦斑は不明瞭で、日本で見られるビンズイに似ているように見える(もっとも、この個体を亜種カラフトビンズイの範疇に入ると考えることも、できない訳ではないが、ここではこの文献の同定に従う)。

大陸の亜種ビンズイの写真は、印刷物にはほとんど出ていないようで、私は上述のAlström et al.(2003)とCanbell(2013)以外では、見たことが無い。インターネット上でも亜種ビンズイと明記された写真はあまりない。ただし、Oriental Bird Images(http://orientalbirdimages.org/)には多くのビンズイの写真が出ていて、その中には亜種名が明記されているものも少数あり、亜種カラフトビンズイとされているものと亜種ビンズイとされているものの両方がある(ただし誤同定されている写真も含まれている可能性がある)。さらに撮影場所から亜種ビンズイと推測されるものもある。

これらの写真を見ると、大陸で撮影された亜種ビンズイ(あるいは亜種ビンズイと推定されるもの)は、本州で繁殖するものに比べて、上面の縦斑がかなり明瞭なものが多い。しかし、本州で繁殖するビンズイは、亜種カラフトビンズイとするには、上面の縦斑や胸と脇の縦斑が太いものが多すぎるようにも思う。私は今のところ、本州で繁殖するビンズイを亜種ビンズイとする、多くの文献の記述に従いたいと思うが、大陸の亜種ビンズイに比べると、縦斑がより不明瞭な傾向があり(ただし、そのような個体は大陸にもいるだろう)、亜種カラフトビンズイに近い形質を持つ個体群ではないかと推定している。

なお、Brazil(2009)とBrazil(2018)は、日本の亜種ビンズイは上面の縦斑がより不明瞭で、亜種カラフトビンズイに近いことを指摘しているが、これはBrazil(2009)の草稿の段階で、私が著者にコメントしたことが反映されたものと思われる。

ところで改訂前の本サイトでは、私は以下のように書いた。

「私の観察では、日本国内で見られるビンズイは、初列風切の突出が大きいものと小さいものの2つのパターンがあり(個体差があり、明確に分けられるか不明)、前者は体上面の縦斑がより明瞭で体下面の縦斑がより太く、後者は体上面の縦斑がより不明瞭で体下面の縦斑がより太い傾向がある。日本国内で撮影された写真を見ると、本州で繁殖期に撮影されたものは初列風切の突出が大きく、冬期に撮影されたものは初列風切の突出が小さい。ところが北海道で繁殖期に撮影されたビンズイは、初列風切の突出が小さく見える(たとえば河井ほか 2003)。また、沖縄野鳥研究会(2002)やNPO法人 奄美野鳥の会(2009)に掲載されている1994年3月21日に沖縄県嘉手納町や2007年3月に奄美大島大和村で撮影されたビンズイの写真は、初列風切の突出が比較的大きく、縦斑が太く明瞭な傾向があるように見える。
 初列風切の突出や体上下面の縦斑から、本州で繁殖するものを亜種ビンズイと考えると、北海道で繁殖するものや本州で冬期に見られるものは亜種カラフトビンズイに近いように見える。また、奄美大島以南で越冬するものは亜種ビンズイかもしれない。
 Alström et al.(2003)に掲載されている西ベンガルで4月に撮影された亜種ビンズイは、日本で観察されるビンズイよりも体上面の縦斑が太くて明瞭であるように見える。したがって、日本国内で繁殖する個体群は、亜種ビンズイと亜種カラフトビンズイの中間的な形態を持ち、わかりにくいものである可能性がある。」

しかし、亜種ビンズイはカラフトビンズイよりもむしろ初列風切の突出が小さいとされているので、「初列風切の突出が大きいことから、本州で繁殖するものを亜種ビンズイと考える」のは、明らかに間違いである。これまで述べたように、本州で繁殖するビンズイは、亜種ビンズイと考えるのが普通である。しかし私の考えでは、本州で繁殖する亜種ビンズイは、本州で非繁殖期に見られる多くのビンズイよりも、初列風切の突出が大きい傾向があるように思える(その点でも本州の繁殖個体群は、亜種カラフトビンズイに似ているかもしれない)。ただし、この点については私は十分に調査しておらず、より詳細な調査が必要だろう。

なお、Brazil(2009)とBrazil(2018)も、日本の繁殖個体群の初列風切は他地域のものに比べて三列風切を超えて長く伸びている、と述べている。これを読むと多くの人は「おお!文献の裏付けもあるのだ!」と納得するかもしれない。実はBrazil(2009)が発行される前に、私はその草稿に対する意見を著者から求められ、かなりコメントしたのだが、そのコメントの中で「ビンズイの日本の繁殖個体群は、他の個体群よりも初列風切の三列風切からの突出量が大きい」と書いた(本当は本州の繁殖個体群とすべきだったと思うのだが、どういうわけかJapanese breeding populationと書いてしまった)。したがって、私の意見とBrazil(2009)やBrazil(2018)の記述が一致するのは、不思議ではない。

日本国内で繁殖するビンズイや渡りの時期に通過するビンズイ、越冬するビンズイは、外部形態に変異があると、私は考える。過去の多くの研究成果を踏まえて考えると、日本で繁殖するビンズイを全て亜種カラフトビンズイとするのは、性急すぎるように思える。少なくとも本州で繁殖するビンズイは、やはり亜種ビンズイではないだろうか。日本で見られるビンズイがどの亜種であるかは別として、ビンズイを観察する際は亜種を安易に決めつけるのではなく、その外部形態を良く観察し、場所や観察日と共に、記録することが重要であるように思う。

2.ヨーロッパビンズイ Anthus trivialis

1)分類

原記載はスウェーデンの標本に基づき、Linnaeusが1758年に行った(del Hoyo et al. 2004)。原記載時は属が異なり、Alauda属だった(Cramp 1988; del Hoyo et al. 2004)。本種の亜種については、

  • A. t. trivialisA. t. schlueteriA. t. haringtoniの3亜種を認める説(Cramp 1988; del Hoyo et al 2004; Clements 2007; del Hoyo & Collar 2016)
  • A. t. trivialisA. t. sibiricusA. t. haringtoniの3亜種を認める説(Dickinson 2003)
  • A. t. trivialisA. t. haringtoniの2亜種を認める説(Svensson 1992、Alström et al. 2003; Gill et al. 2021)
などがある。

このほかに、A. t. differensA. t. salomonseniの亜種も記載されたことがある(Cramp 1988、Alström et al. 2003、Dickinson 2003)。

2021年現在、本種の亜種は1番目の説と3番目の説が有力のようである。

なお、亜種A. t sibiricusA. t. differensA. t. salomonseniは、Alström et al.(2003)によれば基亜種A. t. trivialisに含まれる。また、2亜種を認める説をとる場合、亜種A. t. schlueteriは、基亜種に含まれる(Alström et al. 2003)。

基亜種A. t. trivialisの亜種和名は、ヨーロッパビンズイである(日本鳥学会 2000)。私は他亜種の和名を知らない。

2)亜種の識別

Alström et al.(2003)によれば、基亜種以外の各亜種の外見上の特徴は以下のとおりである。

  • 亜種A. t. schlueteriは基亜種に比較して、わずかにより太い暗色縦斑を伴った、平均的により淡い色彩の上面を持ち、下面にはより大きな縦斑があり、より幅が広く、高い嘴基部とより長い尾羽を持つ。
  • 亜種A. t. haringtoniは野外では識別不能であるが、標本では基亜種A. t. trivialisに比較して、頭部と背、下面の両側に、より暗色でより太い縦斑があり、比率上より大きな嘴を持つ。
  • 亜種A. t. sibiricusは基亜種に比較して、上面がより淡く、より灰色味がある。
  • 亜種A. t. differensは基亜種に比較して、上面がより太くてより黒い縦斑を伴って、より褐オリーブ色であり、喉と胸がより大きく、より黒い縦斑を持って、より暖かい赤みを帯びたバフ色であり、腹がより黄色みを帯びる。
  • 亜種A. t. salomonseは基亜種に比較して、より黒い縦斑のある上面、より赤みを帯びた砂色の喉と胸・腹を持つ。

日本で記録されている亜種は基亜種だけなので、現時点では日本国内で亜種の識別が問題になることはない。ただし、現在一般的に基亜種に含められる亜種A. t. sibiricusは、分布から見て日本へ渡来している可能性が高い。

3)分布

Tyler(2004)によれば、亜種の分布は以下のとおりである。

  • 亜種ヨーロッパビンズイ A. t. trivialis(亜種A. t. sibiricus、亜種A. t. differens、亜種A. t. salomonseniを含む):ヨーロッパ北部と西部(アイスランドとアイルランドを除く)から東はバイカル湖とアルダン川中流(おそらくコルイマ川上流まで)、南においては地中海沿岸北側とトルコ北部から東はザカフカジエ(ザカフカス)とイラン北部にかけての地域で繁殖し、ブラックアフリカ(サブサハラ)とインドで越冬する。
  • 亜種A. t. schlueteri:カザフスタン東部と中国北西部(タルバガタイとザイリンスキー・アラタウ)から南は天山(テンシャン)とアフガニスタン東部までの山地で繁殖し、インド中部で越冬する。
  • 亜種A. t. haringtoni:ヒマラヤ北西部(カシミールから東はガルワール)で繁殖し、インド亜大陸で越冬する。

2亜種を認める説をとる場合、亜種A. t. schlueteriの分布域は基亜種に含まれる(Alström et al. 2003)。

これら以外の亜種の分布はDickinson (2003) によれば、亜種A. t sibiricusはシベリア南部からモンゴル北部で繁殖し、アフリカ北東部とアジア北西部で越冬する。また、Alström et al.(2003) によれば、亜種A. t. differensはトルコ北東部に、亜種A. t. salomonseniはスコットランドと北イングランドに分布する。

4)日本国内での分布

本種の日本で初めての記録は、新潟県柏崎駅前日本石油柏崎石油所における1965年2月9日の捕獲記録である(風間 1972; 日本鳥学会1974)。この日本初記録は、本種には珍しい厳冬期の記録である。論文にはモノクロ写真が掲載されているが、写真では細部が分からないのが残念である。日本鳥学会(2000)によれば、日本国内では基亜種A. t. trivialisが新潟、鹿児島、沖縄島でaccidental visitorとして記録されている。

しかし、その後記録は増加し、日本鳥学会(2012)では、本亜種は本州、九州、対馬、トカラ列島、沖縄島、宮古島、与那国島ではaccidental visitorであるが、飛島、舳倉島ではirregular visitorである。平野(2008)によれば、石川県内では、1987年から2007年までの21年間に、1990、1991、1994、1996、1997、1998、2000、2001、2002、2003、2005、2007年の12ヶ年に記録されており、記録されない年より記録される年の方が多い。その後の2008年から2016年までの9年間においても、記録された年の方が多く7年である(平野 2021)。これらの記録の場所を私は確認していないが、おそらく舳倉島での記録だろう。Umegaki (2014) は、本種の日本での記録は舳倉島で特に多いことを報告している。

日本での記録時期は、春期と秋期の両方にある。季節による記録数の偏りの有無について、私は未調査である。また、風間(1972)が報告した日本初記録の個体は、前述のとおり2月と言う厳冬期の記録であるが、他に厳冬期の記録を私は知らない。

3.ビンズイとヨーロッパビンズイの識別

全北区のタヒバリ類は形態や行動から、大型のタヒバリ類と小型のタヒバリ類に分けることができる(Alström et al (2003)。前者にはマミジロタヒバリ、ヒメマミジロタヒバリA. rufulus、コマミジロタヒバリ、ムジタヒバリA. campestris、カナリータヒバリA. berthelotii、ハシナガビンズイA. similisが、後者にはセジロタヒバリ、ムネアカタヒバリ、マキバタヒバリ、ヨーロッパビンズイ、ビンズイ、サメイロタヒバリA. spinoletta、ヨーロッパタヒバリAnthus petrosus、タヒバリ、チョウセンタヒバリAnthus roseatusが含まれる。両者は三列風切から識別することができ、大型タヒバリ類は1番内側と2番目の三列風切羽の先端間の長さに比較して、1番外側と2番目の三列風切羽の先端間の長さが短い。小型タヒバリ類では、この長さの差は小さい。また、大型タヒバリ類は尾と体後端をいっしょに振るが、小型タヒバリ類は尾だけを振る。ただし、この尾の振り方の違いは、微妙で分かりにくい場合もあるように思う。

ビンズイとヨーロッパビンズイはタヒバリ類の中でも樹上での行動が多く、後指の爪はタヒバリ類他種に比べて短く、カーブが大きい。

ビンズイとヨーロッパビンズイは互いによく似ており、日本ではかつて、識別点があまり知られていなかった。日本国内でヨーロッパビンズイの昔の記録が少ないのは、識別ができずに見逃されていたためかもしれない。

Alström et al. (2003) によるとビンズイとヨーロッパビンズイの識別点は以下のとおりである。

  • 新鮮な羽毛の場合は、上面の色はビンズイのほうが明らかに緑色味があるが、弱い光のもとでは緑色はしばしば判断しにくくなる。また、摩耗した羽毛の地色は、ビンズイではヨーロッパビンズイよりもピュアな灰色味を帯びる。
  • 典型的なビンズイはコントラストの大きい頭部のパターン:目の上や後ろでより明瞭な眉斑、耳羽の後端の白色斑と暗色斑がより明瞭であること、眉斑の上に幅の広い黒い「眉」があることで、通常のヨーロッパビンズイとは識別することができる。ただし、ビンズイの耳羽の白色斑はときどき非常に不明瞭になり、暗色斑は稀に非常に不明瞭になる。また、ヨーロッパビンズイの中にはビンズイのように耳羽の白色斑や暗色斑が非常に明瞭な個体も存在する(Lewington et al. 1991)。
  • 亜種カラフトビンズイの場合は、ヨーロッパビンズイに比較して背の縦斑は不明瞭である。また、頭部中央の縦斑はビンズイのほうがヨーロッパビンズイよりも不明瞭でより細く、脇の縦斑はヨーロッパビンズイの方が細い傾向がある。
  • 眉斑はビンズイでは非常に目立ち、目より前でバフ色味があり、目の上と後ろで白っぽくて非常にまばらに縦斑があるのに対し、ヨーロッパビンズイでは全体にバフ色味があり、目の上と後ろではより明瞭な縦斑があり、そのために目立たず、特に後端では通常ビンズイよりも拡散する。ただし、オーバーラップもあり、ビンズイでも(特に秋)眉斑が淡いバフ色がかっていて目の上と後ろで縦斑がやや明瞭なものもいる。逆にヨーロッパビンズイでも眉斑が明瞭で目の前でバフ色、眼の上と後ろで白っぽく縦斑があるものも稀にいる。
  • 翼帯(特に中雨覆)は、平均的にビンズイの方がバフ色味があり三列風切はコントラストが少ない傾向がある。
  • 初列風切の突出はビンズイでは短い。
  • 地鳴きは互いに非常に似ているが、ビンズイのほうが高く、細く、弱い声である。
図1-1ビンズイ

図1-1. ビンズイ 2005年7月23日 長野県上水内郡信濃町で撮影
本州で繁殖期に繁殖環境で撮影した個体。三列風切から突出している初列風切は長いように見える。体上面の縦斑は太くて比較的明瞭であり、脇の縦斑も太い。


図1-2ビンズイ

図1-2. ビンズイ 2008年5月4日 長崎県対馬で撮影
春の通過個体か、あるいはここで越冬した個体のいずれか。繁殖期の本州で観察されるビンズイよりも体下面の縦斑がより細く、背の暗色縦斑がより細くて淡く見える。腹には縦斑にかすかに見えるが、非常に不明瞭で、腹が白く見える。亜種カラフトビンズイかもしれない。初列風切の突出は、図1-1の個体より短く見える。三列風切の暗色部は色が淡く、羽縁の淡色部との境界は不明瞭で、三列風切はコントラストに乏しい。


図1-3ビンズイ 図1-3ビンズイ

図1-3. ビンズイ 2008年5月26日 石川県輪島市舳倉島で撮影
春の通過個体。図1-2の個体に比べて、背の暗色縦斑はより太くて黒っぽく見え、脇の縦斑も太い。亜種ビンズイと思う。三列風切の暗色部は黒味が少なくて羽縁との境界が不明瞭である。しかし、三列風切がかなり摩耗しているので、褪色しているのかもしれない。


図1-4ビンズイ

図1-4. ビンズイ 2008年9月27日 石川県輪島市舳倉島で撮影
秋の通過個体。体上面の地色がやや淡く、縦斑は色が淡くて不明瞭に見える。脇の縦斑は細く、数も少なく、色は淡い。カラフトビンズイのように思う。このような個体は舳倉島では西寄りの風が吹いている時によく見られる傾向があるように思われ、ヨーロッパビンズイが見られるのは、このような個体が見られる時が多い印象がある。この個体は図2-5のヨーロッパビンズイと同日に近くで見られた。この個体の三列風切の暗色部は比較的黒っぽい。


図1-5ビンズイ 図1-5ビンズイ

図1-5. ビンズイ 2013年1月7日 東京都八王子市で撮影
本州の越冬個体。図1-1の個体に比べて体上面の縦斑は細いが、黒っぽくて地色との境界は割合はっきりしているようにも思う。脇の縦斑は黒くて太い。体上面の縦斑が細い点はカラフトビンズイに近いように思えるが、脇の縦斑が太いことや耳羽の黒斑が大きくて明瞭であることから、判断に迷いながらも、亜種ビンズイか?三列風切の暗色部は黒っぽく、羽縁との境界は明瞭に見える。初列風切の突出は、図1より小さい。


図1-6ビンズイ 図1-6ビンズイ 図1-6ビンズイ 図1-6ビンズイ 図1-6ビンズイ

図1-6. ビンズイ 2021年10月24日 東京都八王子市で撮影
本州の非繁殖期の個体。この付近では越冬するが、写真の個体は時期から考えて、秋の渡り途中の可能性がある。同じ場所に3個体いて、どれもほぼ同じような外部形態に見えた。色が異なって見えるが、写真の発色の違いによると思われる。体上面の縦斑は色が淡くて不明瞭に見える。頭頂の縦斑もあまり明瞭ではないようだ。腋の縦斑は淡くて細いが、黒味が強くて淡い色には見えない。胸の縦斑は太くて、複数の縦斑が固まっているように見える。腹の縦斑は細いながらも、比較的はっきり見えるように思える。カラフトビンズイかもしれないが、亜種ビンズイとの中間的なものなのかもしれない。三列風切の暗色部は黒っぽく、羽縁との境界は明瞭に見える。初列風切の突出は、図1より小さい。


図2-1ヨーロッパビンズイ

図2-1. ヨーロッパビンズイ 2003年9月26日 石川県輪島市舳倉島で撮影
初列風切先端は三列風切先端から突出しているように見えない。脇の縦斑はかなり細く、色が淡い。背の縦斑が明瞭に見える。私の経験では、ヨーロッパビンズイの背の中央部では暗色縦斑に挟まれた淡色の部分が耳羽や小雨覆などと比べて明らかに淡色であることが多く、この点でビンズイと識別できることが多いように思う。この個体の眉斑ははっきりしているが、全体に色彩が一様で、目より前だけがバフ色味が強いというようには見えない。


図2-2ヨーロッパビンズイ

図2-2. ヨーロッパビンズイ 2003年9月26日撮影 図6とは別個体と思われる
背の縦斑が明瞭に見える。耳羽後端の暗色斑は小さく不明瞭で、淡色斑は大きいが不明瞭。ヨーロッパビンズイはビンズイとよく似た「ズイー」という声を発するが、少なくとも日本国内ではビンズイに比べると、あまり鳴かないようだ。


図2-3ヨーロッパビンズイ

図2-3. ヨーロッパビンズイ 2003年9月26日撮影 図2-2と同一個体?
頭部の暗色縦斑は、側頭部でやや太く、その点はビンズイに似るが、頭部と背の淡色部の色がかなり淡く、暗色縦斑が黒っぽく太いので、背の縦斑が明瞭に見える。初列風切先端は三列風切先端から突出しているように見えない。三列風切暗色部は色が濃く、羽縁の淡色部との境界が明瞭で、三列風切にコントラストがある。


図2-4ヨーロッパビンズイ

図2-4. ヨーロッパビンズイ 2003年9月27日 石川県輪島市舳倉島で撮影
背の縦斑が明瞭。脇の縦斑はかなり細い。初列風切先端は三列風切先端から突出しているように見えない。三列風切のコントラストははっきりしている。眉斑は眼の上だけが明瞭で、前後で不明瞭。耳羽後端の暗色斑と淡色斑は不明瞭。眉斑の上は少し黒っぽく、ビンズイに似ているが、他の特徴はヨーロッパビンズイに一致する。図2-1から2-4の個体を観察した時には、舳倉島にはヨーロッパビンズイは複数個体いたが、ビンズイは確認しなかった。



図2-5ヨーロッパビンズイ

図2-5. ヨーロッパビンズイ 2008年9月27日 石川県輪島市舳倉島で撮影
この個体の背の縦斑は、ヨーロッパビンズイとしては不明瞭であるように感じられる。ただし、眉斑や耳羽後端の暗色斑や淡色斑が不明瞭である点は、ヨーロッパビンズイの顔として全く違和感がない。。脇の縦斑は細くて淡く、不明瞭であり、この点もヨーロッパビンズイの特徴に一致する。三列風切先端から初列風切先端が突出していない。ただし、日本国内でも三列風切先端から初列風切先端がわずかに突出しているヨーロッパビンズイが観察されることがある(例えば、五百澤ら (2014)に掲載されている写真)。

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