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2005年4月4日 掲載

ハジロミズナギドリ Pterodroma solandri

ハジロミズナギドリ Pterodroma solandri は、悲劇の鳥である。この鳥は1788年にオーストラリア本島東方のノーフォーク島でコロニーが発見された。まもなくこのコロニーの鳥たちは入植者達によって捕獲されるようになった。1790年の記録によると、4月10日から7月10日までの3ヶ月間で、食料としてこの島で殺戮されたハジロミズナギドリの総数は、171,362羽であったという。さらに入植者たちは、食料をストックしておくために新たに動物(ブタ)をこの島に移入した。これらの理由によりノーフォーク島では本種は絶滅した。

この鳥が学界に初めて知られたのはノーフォーク島での大量虐殺よりも後であり、1844年にGouldによって初めて記載された。ロード・ハウ島で本種が再発見されたのは、ノーフォーク島での絶滅の1世紀以上後のことである。現在知られている繁殖地は、ロード・ハウ島のほか、フィリップ島だけである。現在ロードハウ島での推定個体数は9万6000羽である。

本種はウィンター・ブリーダーであり、すなわち冬季に繁殖する。本種がロードハウ島のコロニーに帰還するのは2月から3月で、卵は1個しか生まない。雛は7月に孵化し、11月に巣立ちする。

日本ではかつて1931年に東大東島で採集された個体が、日本唯一の記録とされていた。しかし、後にこの記録は本種ではなく、カワリシロハラミズナギドリP. neglectaであることが明らかにされた。本種の国内での記録は1983年9月の北緯40度32分、東経146度24分での採集記録がある。日本鳥類目録編集委員会(2000)によると、北海道南東部(1983年9月:上記の記録と同一のものだろう)、本州北部三陸沖(1982年8月)の記録がある。また、本書は南大東島で1931年8月の記録も挙げているが、上記のとおりこの記録はカワリシロハラミズナギドリの誤認記録のはずであり、同書のカワリシロハラミズナギドリの記述には、全く同一場所同一月の記録が出ているので、南大東島でのハジロミズナギドリの記録を掲載したのは、なんらかの理由によるミスであろう。

日本に近い海域での記録としては、そのほか、南千島沖3マイルでの1951年10月、1954年9月の記録(ソ連の鳥類学者Sleptsovによる)や、黒田長久博士による1954年7月の南千島南西240マイルの海上での2個体の採集記録がある。

上の写真は、1984年9月30日7時25分に東京-釧路航路の茨城沖付近で私が撮影したもので、当時私は前年の記録を知らなかったので、日本初記録を撮影したと、大変喜んだが、あとで前年の記録を知ってがっかりした。

本種の北太平洋での分布や飛来時期については不明の点が多いが、ハシボソミズナギドリ研究グループの未発表データによると、本種の記録は3月から11月に及んでおり、ほぼ1年を通じて北太平洋に生息している可能性がある。もっとも繁殖期の記録は繁殖に関わらない非繁殖鳥であるはずであり、個体数が少ないことが推定される。

一方、田中(1986)は、1980年から1986年の北太平洋および日本近海における調査に基づき、繁殖期(3月~10月)では、個体群の多くは北太平洋北西部の黒潮前線か親潮前線に集中分布していると考え、非繁殖期(11月~2月)は前線付近に集中分布することなく、北太平洋の好適水温帯を東西に広く海洋生活域としているものと推定している。

真木・大西(2000)によると、三陸沖では8月~10月頃の観察例があるとしており、私が個人的に得た情報やいくつかの文献記録でも、東京-釧路航路では9月頃に観察されることが多いようだ。このように日本近海での記録は不思議と本種の繁殖期にあたる時期のものが多いが(繁殖鳥は南半球にいるはずである)、これは本種がこの時期に北太平洋北西部に集中分布するためではないかと思われる。しかし前述した田中(1986)の記録によると、1980年2月には伊豆諸島周辺海域の一部海域で高い分布密度が記録されており(ただし1981、1983、1984年、1985年には同時期同海域では記録されていない)、今後日本近海で冬季に群れが観察される可能性も十分にある。

参考および引用文献:

  • Lindsey TR (1986) The Seabirds of Australia. Angus & Robertson Publishers, NSW.
  • 真木広造・大西敏一 (2000) 日本の野鳥590.平凡社,東京.
  • 中村一恵 (1984) 日本付近北西太平洋におけるミズナギドリ目海鳥の分布と移動. 海洋科学 16(4): 199-204.
  • 日本鳥類目録編集委員会(編) (2000) 日本鳥類目録改訂第6版.日本鳥学会,帯広.
  • Schodde R & Tidemann SC (eds)(1990) Reader's Digest Complete Book of Australian Birds. 2nd edition. Reader's Digest(Australia), Sydney.
  • 田中 裕 (1986) 北太平洋におけるハジロミズナギドリの分布と分布域の表層水温について. 山階鳥類研究所研究報告18: 55-62.
ハジロミズナギドリ

1984年9月30日 東京-釧路航路
本種は全身がほとんど黒褐色で、嘴の根元は白い。翼裏面の先端部には三角形の白色部があり、その中に暗色の線が1本ある。尾はミズナギドリの仲間としては、長く見える。カワリシロハラミズナギドリの暗色型は、本種に良く似ているが、翼の下面付け根付近に白色部があり、また翼上面の初列風切に白色の部分があるので、識別できる。尾は本種のほうが長く見えると思う。



ハジロミズナギドリ

2009年9月24日 東京-苫小牧航路
飛翔時、上から見ると、不鮮明なM字型の模様が見える。この模様は本種を含むシロハラミズナギドリ属Pterodromaでしばしば見られる特徴である

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