2005年3月30日 掲載
ミナミオナガミズナギドリ Puffinus bulleri
ミナミオナガミズナギドリPuffinus bulleriは、ニュージーランドのワイカナエ・ビーチで1884年10月にWalter L. Bullerが採取した1個体の標本を元に、1888年にO. Salvinによって記載された(Lindsey 1986)。英名と学名は、発見者の名前に基づくものと思われる。その繁殖地は約30年間、発見されなかったが、ニュージーランド北部のプア・ナイト諸島(Poor Knights Islands)で1915年にWilliam Fraserによって、初めて発見され、現在も主にこの地域でのみ繁殖している。19世紀はじめまではマオリ族がこの諸島に住み、若鳥を採取していた。また、野生化したブタによる若鳥の捕食や繁殖地のかく乱により、一時はかなり減少していたが、1936年にブタが一掃され、それ以降、かなり増加した(Harper & Imber 1985)。現在はおよそ200,000ペアが繁殖している(Enticott & Tipling 2002)
本種の和名は昭和20年代に、北洋の海鳥調査を行った黒田長久博士によって、命名された。
日本での記録はかつてはかなり少なく、東京都公害局(1975)には日本初記録として、1968年11月18日の父島沖1羽と1969年7月19日の記録が挙げられているが、少なくとも前者は同書に掲載された写真から、オナガミズナギドリの誤認であることが明白である。この記録について、日本鳥類目録改定第5版(日本鳥学会 1974)でも、目録から除外した種として挙げられている。
日本鳥類目録改定第6版(日本鳥類目録編集委員会 2000)には、accidental visitorとして、1986年6月の神奈川での記録のみが挙げられているが、私の記憶するところでは、東京-釧路航路の金華山沖で1976年10月19日に観察・撮影された本種が日本初記録として、日本野鳥の会の「野鳥」誌42巻7号(1977年発行)に写真入りで発表された(Brazil 1991を参照のこと)。森岡照明氏によって撮影されたこの写真は、高野(1981)にも掲載されている。近年においては、9-10月の秋期に、東京-釧路航路などでしばしば観察されており、個体数も少なくない。ただし本土に近寄ることは稀である。2004年6月には谷津干潟に本種1個体がしばらく滞在し、多くのバードウォッチャーを呼び寄せた。この個体はその年に巣立った若鳥(下記記述参照)が、貿易風帯で卓越する東風によって西方に吹き流され、東京湾内、さらには谷津干潟にまで入り込んだ可能性が高い。おそらくもともと衰弱していたのであろう。
本種は9月中旬に集団繁殖地へ大きな群れで帰還し、交尾は10月終わりに行われる。そして11月終わりに1個の卵を産んで夫婦交代で(おおむね4日ごと)抱卵する。そして約51日後に卵が孵化する。雛はだいたい5月終わり頃に島を離れる。
非繁殖期の本種の分布は北太平洋の広い範囲に及ぶが、餌生物の分布などの影響を受け、季節移動している可能性がある。アメリカ合衆国西側沿岸部では北緯60度まで北上するが(小城 1982)、ベーリング海には入らないようだ。日本で秋期に現れる個体は、繁殖地へ向かう途中の個体と考えられるが、記録される時期から考えると、その多くは繁殖に参加しない若い鳥ではないかと思われる。また、繁殖期である3月などにも日本国内の記録もあり(藤波 1986)、繁殖期に北太平洋に残っている個体も存在するものと考えられる。
文献:
- Brazil MA (1991)The Birds of Japan. Christopher Helm, London.
- Enticott J & Tipling D (1997) Photographic Handbook Seabirds of the World. New Holland, London.
- 藤波不二雄 (1986) 道東および釧路航路の探鳥記録. ワイルドライフ・レポート 4: 82-91.
- Harper PC & Imber MJ (1985) Buller's Shearwater. in Reader's Difest Complete Book of New Zealand Birds. Reader's Digest, NSW.
- Lindsey TR (1986) The Seabirds of Australia. Angus & Robertson Publishers, NSW.
- 日本鳥学会 (1974) 日本鳥類目録改定第5版. 学習研究社, 東京.
- 日本鳥類目録編集委員会(編)(2000) 日本鳥類目録改定第6版. 日本鳥学会, 帯広.
- 小城春雄 (1982) 北洋における海鳥観察指針. 水産庁研究部.
- 高野伸二 (1981) カラー写真による日本産鳥類図鑑. 東海大学出版会, 東京.
- 東京都公害局 (1975) 東京の鳥.東京都産鳥類目録:明治から現代までの記録.(財)日本野鳥の会.