ウグイスの「ほーほけきょ」の声は息を吐いているの?吸っているの?Part4


 2001年にアメリカのユタ大学のガラーとデイリーは、キンカチョウを使ったさえずりの研究結果を発表しました(Goller and Daley 2001)。彼らはキンカチョウの雄のヒナ達を二つのグループに分け、一つは30羽をグループで育て、もう一つは9個体を囀りのテープを聞かせて育てました。後者の9個体は生後35日から110日の間は雄の成鳥から離されて生後35日から55日までの間、編集された録音テープを聞かされて育てられました。

 それぞれの個体の胸にはやわらかな管が刺し込まれ、それと連結した小さな圧力センサーが背中につけられ、気嚢(きのう)の圧力が記録されました。ちなみに圧力測定には、日本の株式会社フジクラの半導体圧力センサーが使用されています。

 気嚢(きのう)という言葉は聞きなれないかもしれませんが、気管支が袋状に膨れて肺の外に出た、鳥に特有の臓器です。鳥はこの気嚢を膨らませたりしぼませたりして、呼吸をしています。肺は呼吸の際に膨らんだりしぼんだりしません。ですから、気嚢の圧力を調べれば、息を吸っているのか吐いているのか、分かるわけです。また、それと同時に気管の空気の流れの量も記録されました。

 さてこの調査結果によると、これらの実験用の雄のキンカチョウは、ほとんどの「句」が息を吐いているときに発声されていました。しかし、息を吸っているときにも声を出している場合があることも発見されました。30羽のキンカチョウのうち、16羽(全体の53%)は、1回の囀りの中で少なくとも1回の息を吸っている時の発声を行い、5羽(16.7%)は2回の吸気時の発生をし、1羽(3.3%)は3回の吸気時の発声を行ったのです。

 吸気時の発声が、確認されたのはこれが始めてであると、この論文は明記しています。また、濱尾博士によると、その後に発表された論文の中にも、吸気時の発声が見出された種はなく、現在でも息を吸っている時に声を出すことが確認されている鳥は、キンカチョウだけのようです。
 
 日本のウグイスやヒバリなどについては、研究が行われていないので、息を吸っている時に声を出していないと断言することはできませんが、少なくともそれが確認されたことはありません。また、延々と長く声を出すヒバリやコヨシキリでも、その囀りの中に声を出していない時があり、その短い間でも息を吸うことは十分可能と思われます。ウグイスやヒバリは、息を吸いながら囀ることもできる(だから長く囀ることができる)というのは、俗説と考えて良いでしょう。

 ガラーとデイリーの論文にはまだまだ多くのことが書かれていますが、そのことについては、いずれ機会があったらご紹介したいと思います。

文献:
Goller, F. and Daley, M A. 2001. Novel motor gestures for phnations during inspiration enhance the acoustic complexity of birdsong.. Proc. R. Soc. Lond.. B 268: 2301-2305.
 


2006年4月16日
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