コノドジロムシクイ Japanese Name: Ko-nodojiro-mushikui

英名 English Name : Lesser Whitethroat
学名 Scientific Name : Sylvia curruca

2012年4月25日作成

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本種の分類と和名について

 本種の分類には諸説あり、混乱している。

 たとえば、ズグロムシクイ属を網羅したShirihai et al.(2001)は、コノドジロムシクイを複合種(complex)として扱い、以下のような表記をしている。
S. [curruca] curruca :Lesser Whitethroat (和名: コノドジロムシクイ)
S. [curruca] margelanica :Margelanic Lesser Whitethroat (和名:ヒガシコハッコウチョウ(新称))
S. [curruca] minula :Desert Lesser Whitethroat (和名:コハッコウチョウ)
S. [curruca] althaea :Mountain Lesser Whitethroat (和名:アルタイコノドジロムシクイ)

 これらのものは、さらに亜種または個体群に分類されているので、複雑である。コノドジロムシクイは、Shirihai et al.(2001)によれば、さらに以下の7つの個体群に分けられる。
currucablythihalimodendricaucasicatelengiticajaxaricasnigirewskii

del Hoyo et al.(2006)は、上記複合種のうち、コノドジロムシクイ、コハッコウチョウ、アルタイコノドジロムシクイを、それぞれ独立種として扱い、ヒガシコハッコウチョウはコハッコウチョウの一亜種とした。また、コノドジロムシクイの亜種として、currucahalimodendriだけを亜種として認めた。

Dickinson(2003)は、上記複合種のうち、コノドジロムシクイとアルタイコノドジロムシクイだけを独立種として認め、ヒガシコハッコウチョウとコハッコウチョウは、コノドジロムシクイの亜種としている。また、コノドジロムシクイの亜種としては、currucahalimodendrijaxarticatelengiticaminulamargelanicacaucasicaの7亜種を認めている。

Baker(1997)は、上記複合種全体を一つの種コノドジロムシクイ S. curruca として扱っている。この文献では「少なくとも9亜種ある」とし、以下の亜種を掲載している。currucablythicaucasicajaxarticaalthaeatelengiticahalimodendrimargelanicaminula

このように、コノドジロムシクイの分類には多くの説があるため、種や亜種の同定を行う場合、厳密に言えば、種としてのコノドジロムシクイがどの個体群を含むのか、どの個体群を別種として扱うのか、明らかにしていなければ意味がない。渡部・池長(2010)は、分類についてどの文献を基準にしたか、明記していないが、実はdel Hoyo et al.(2006)を基準としている。この論文を読む場合、その点に気を付けるとよいと思う。

本ページも渡部・池長(2010)にならい、del Hoyo et al.(2006)を分類の基準にしているが、識別についてはかなりShirihai et al.(2001)を参考にしており、上に挙げた文献のほか、Svensson(1992)とこれを和訳したSvensson・村田(2011)を参考にした。

日本で記録されているコノドジロムシクイの亜種はblythiとされているが(和田・佐藤 1998)、亜種間の識別は非常に難しく、しかもどの亜種も季節的移動を行うため、野外での同定はほとんど不可能である。ただし亜種blythiはコノドジロムシクイの中ではもっとも東に分布する亜種であり、形態的にもそれを否定する要素はない(渡部・池長 2010)。

文献:
Baker, K. 1997. Warblers of Europe, Asia and North Africa. Christopher Helm, London.
del Hoyo J., Elliott A. and Christie D. (ed.) 2006. Handbook of the birds of the World vol.11 Old World Flycatcher to Old World Warblers. Lynx Edicions, Barcelona.
Dickinson, C. (ed.) 2003. The Howard and Moore Complete Checklist of the Birds of the World, 3rd edition. Christopher Helm, London.
Shirihai H., Gargallo G., Helbig A. J., Harris A. and Cottridge D. 2001 Sylvia Warblers. Christopher Helm, London.
Svensson, L. 1992. Identification Guide to European Passerines. 4th revised and enlarged edition. Stckholm.
Svensson, L. ・村田健 2011. ヨーロッパ産スズメ目の識別ガイド. 文一総合出版, 東京.
和田祥司・佐藤理夫 1998. 日本初記録コノドジロムシクイについて. 鳥類標識誌 13(1): 8-10.
渡部良樹・池長裕史 2010. 東京都水元公園におけるコノドジロムシクイ
Sylvia currucaの記録. 日本鳥学会誌 59(1): 84-87.
1. 2010年2月20日 東京都

体上面は緑褐色で耳羽が黒く、翼帯がない。このようなウグイス科の鳥は、日本で記録された種の中にはないので、分かりやすい。

日本国内での記録は、渡部・池長(2010)によれば、写真のある記録として、1994年から2008年までの間に8例あり、そのほかに写真などの証拠がない記録が2例ある。

この論文投稿後に得られた2009年以降の記録が、そのほか4例あり、いずれも写真が存在する。1991年にも証拠のない本種と考えられる記録がある。したがって、2012年4月現在において、写真のある日本国内での記録は12例、証拠のない記録が3例存在する。また、私が把握している記録とは異なると思われる写真をネット上で見たが、詳細は不明である。

記録は北海道、本州、四国、奄美大島から得られており、本州では日本海側でも太平洋側でも島嶼部での記録がある。
2. 2010年2月20日 東京都

和名と英名にあるとおり、喉は白い。胸から腹、下尾筒にかけては褐色みのある白色。

風切羽の羽縁は淡色で、翼をたたんでいる時、次列風切羽縁が特に白っぽく見えることがあるが、光線の状況によっては分かりづらい。

類似のノドジロムシクイ S. communis (日本未記録)は風切羽の羽縁が赤褐色ことで識別できる。また、ノドジロムシクイの脚は肉色で、このように黒くない。
3. 2010年2月20日 東京都

最外側尾羽はほとんど白く、内弁基部に黒色部がある。
4. 2010年2月20日 東京都

最長初列風切はP6、P7またはP8。P6-P8は長さがあまり変わらないので、翼をたたんでいる時にはP7とP8は確認しづらい。

近縁で時に本種と同一種とされるコハッコウチョウ S. minula との識別はかなり難しい。
コハッコウチョウ(ヒガシコハッコウチョウを含む)はコノドジロムシクイより小型で、嘴がより短く細い。初列風切の突出量はより小さい。上面は黄色みのある砂色または砂灰色。赤みのある砂色を帯びた褐色としている文献もある(Svensson・村田 2011)。頭部の模様のコントラストは、より少ない。顔の黒色はしばしば目先と耳羽の前半に限られ、ほとんど欠けていることもある。

同様に近縁のアルタイコノドジロムシクイ S. althaea も酷似している。アルタイコノドジロムシクイのほうが大きく、嘴ががっしりしている。また、目先、前頭、あるいは頭上全体が暗色であるため、耳羽の暗色と頭部の他の部分のコントラストがほとんどない。また、上面はより暗色である。

強い光の下では、この写真のように頭部のコントラストが見えにくくなるので、注意が必要と思われる。
5. 2010年2月20日 東京都

頭部が日陰に入っているので、耳羽の暗色が見えやすい。目の下は三日月型に白い。

メジロムシクイ S. hortensis の第1回冬羽の頭部のパターンは本種と似ているが、目の下の三日月型の白色部がなく、嘴はもっと長くてがっしりしている。また、体はずっと大きい。
6. 2010年2月20日 東京都

草地や明るい樹林でみられる。今まで私が観察した2個体では、地上付近にいることもあったが、樹木の15mほどの高さにまで上がることもあった。移動時に尾を下に振ることがある。また、短時間のホバリングを行うこともある。チャッ、チャッと聞こえる地鳴きを出す。
6. 2010年2月20日 東京都

この写真からは最長初列風切はP7またはP8であるように見える。P9はP6より短いが、P5よりは長いように見える。この写真のみからP9の長さを判断するのは危険であり、実際よりもP9が長く見えるように写っている可能性も十分あるが、P9の長さについて、敢えてここで言及する。

コハッコウチョウのP9は通常P4と同長かあるいはP3とP4の間であるので、この個体はこの写真のP9の長さからは、コハッコウチョウの可能性は低いように思える。コノドジロムシクイの亜種blythiのP9は、P5と同長かP4とP5の間で、一部にP5とP6の間のものもいる。したがって、blythiとしては不自然ではない。

両側尾羽ははっきりと白い。
6. 2010年2月20日 東京都

目先や耳羽の暗色部は日陰のほうが見えやすい。不明瞭な白い眉斑がある。

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