ヤナギムシクイ Japanese Name: Yanagi-mushikui

英名 English Name : Two-barred Warbler
学名 Scientific Name : Phylloscopus plumbeitarsus

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本種の分類と和名について(2011年4月24日改訂、2015年6月9日改訂)
 本サイトでは以前、本種P. plumbeitarsusを、P. trochiloidesの一亜種 P. t. plumbeitarsus として扱い、亜種の和名をフタオビヤナギムシクイとしていた。しかし、最近の分類の趨勢にしたがい、現在はこの亜種を独立種として扱うこととした。

 本種は分布域の一部において、P. trochiloidesの亜種viridanusと同所的に分布していて、しかも交雑しない。そのため、独立種として扱われることが多い。例えば平凡社の「日本の野鳥590」(真木・大西 2000)は、これを独立種フタオビヤナギムシクイ(P. plumbeitarsus)とした(ちなみにこの和名は大西敏一氏の命名である)。

 本サイトでは、過去に「Irwin et al. (2001)に従い、亜種として扱っている」と書いたが、じつはIrwin et al.(2001)は、このplumbeitarsusを亜種とするか、独立種とするか、明記していない。ただし、この文献を紹介したCollinson(2001)は、本種をP. trochiloidesの亜種とした。イギリスの鳥学会(BOU: British Ornithologists' Union )は、この考え方を支持していると思われ、plumbeitarsustrochiloidesの一亜種として扱っており、イギリスの鳥類リストもそのようになっている。一方、Bairlein(2006)をはじめとする最近の文献は、plumbeitarsusを独立種として扱っている。

 本種の和名については、山階(1941)や日本鳥学会(1932)はP. trochiloidesの亜種として、亜種名を「ヤナギムシクイ」とした。しかし、最近は亜種の和名としてフタオビヤナギムシクイを使った文献もある(例えば無記名 2001, 森岡 2002, 五百沢ほか 2004など)。これはおそらく上記の真木・大西(2000)の命名にならい、亜種の和名としてそのまま使用したものだろう。日本国内での本種の記録について報告した渡部(2011)は、本種にヤナギムシクイの和名を使用した。

 フタオビヤナギムシクイと言う和名は特徴をよく表していて、良いものだと思うが、本分類群に対する最初の和名がヤナギムシクイであったこと、日本鳥類目録改訂第7版(日本鳥学会 2012)がこの和名を採用していることから、本サイトではP. plumbeitarsusの和名をヤナギムシクイとすることとした。ほかにフタスジヤナギムシクイという和名を使用した文献なども見たことがある。

 なお、本種をP. trochiloidesの一亜種としたうえで、基亜種trochiloidesの和名を「ヤナギムシクイ」とした文献もあるが、これは上記のとおり、plumbeitarsusに対する和名として使用された経緯がある以上、不適切と思う。また、本種の和名をヤナギムシクイとすると、P. trochiloidesの和名がなくなってしまうが、別に考えるべきだろう。日本鳥学会(2012)では2011年4月現在では、P. trochiloideの亜種P t. trochiloideに対してニシヤナギムシクイという和名を与えており、種P. trochiloidesの和名をニシヤナギムシクイとするのが、現時点では自然であろう。

引用文献:
Bairlein, F. (2006) Family Sylviidae (Old World Warblers). In: del Hoyo, J., Elliott A. & Christie D.A. (eds) Handbook of the Birds of the World. Vol. 11. Old World Flycatchers to Old World Warblers, Lynx Edicions, Barcelona.
Collinson, M. 2001. 'Two-barred Greenish Warbler'on Scolly: new to Britain and Ireland. British Birds 94: 284-288.
五百沢日丸, 山形則男, 吉野俊幸 2004. 日本の鳥550山野の鳥 増補改訂版. 文一総合出版, 東京.
Irwin, D. E., Bensch, S. & Price, T. D. 2001. Speciation in a ring. Nature 409: 333-337.
真木広造, 大西敏一 2000. 日本の野鳥590.平凡社, 東京.
森岡照明 2002. 検討 2001年5月5日舳倉島に出現したムシクイ類. Birder 16(9): 50-53.
無記名 2001. 石川県初記録詳解 1.(フタオビ)ヤナギムシクイ Phyllocopus trochiloides plumbeitarsus. 平野賢次(編) 石川野鳥年鑑2000. : 47-48. (財)日本野鳥の会石川支部, 金沢.
日本鳥学会 1932. 改訂日本鳥類目録. 東京帝国大学動物学教室, 東京.
日本鳥学会 2012. 日本鳥類目録改訂第7版. 日本鳥学会, 三田.
渡部良樹 2011. ヤナギムシクイ Phylloscopus plumbeitarsus の日本における記録. 山階鳥類学雑誌 42: 164-174.
山階芳麿 1941. 日本の鳥類と其生態 第二巻. 岩波書店, 東京.
1. 2001年5月20日 石川県輪島市

2本の翼帯は太く明瞭である。その点でキマユムシクイやカラフトムシクイに似る。ただし翼帯の幅はヤナギムシクイグループ(本種とP. trochiloides, P. nitidus)の亜種によって異なり、写真のヤナギムシクイP. lumbeitarsusでもっとも広く、その西に分布するP. trohiloidesの亜種viridanusでもっとも狭い(Irwin et al. 2001)。脚はメボソより暗色で細い。地鳴きはハクセキレイにやや似た「チュリ」という声で、近くで聞くと「チュルリ」と聞こえることもある。特徴的な声であり、この個体は声によって発見した。文一総合出版の「日本の鳥550改訂版」の個体とおそらく同一個体。
2. 2000年5月24日 石川県輪島市

1の前年に初めて撮影した個体。最終的に地鳴きによって本種であることを確信した。個体により、あるいは姿勢により、このように嘴が長く見えることがあるが、通常はメボソムシクイより短く見える。
3. 2000年5月24日 石川県輪島市

2と同一個体。この写真では嘴は長く見えない。キマユムシクイやカラフトムシクイとは異なり、三列風切の羽縁は白くない。眉斑の形は1の個体とは異なり、目より少し後で最も太い。この時期の一般的なメボソムシクイでは、眉斑の幅はもっと狭く、目の後ろではこれほど太く見えることはない。ただし、秋のメボソムシクイの眉斑の形は個体差がかなりあって、幅の広い個体も多いので、注意する必要がある。
4. 2000年5月24日 石川県輪島市

2、3と同一個体。キマユムシクイやカラフトムシクイとは異なり、頭央線はない。眉斑は鼻孔の近くまで伸びるが、左右が連結しない。
5. 2000年5月25日 石川県輪島市

三列風切に対する初列風切の突出は、メボソムシクイよりずっと小さい。大雨覆や中雨覆は内側の羽毛も先端が白いため、翼帯が長く見える。メボソでは通常、翼帯がもっと短く見える。
2〜4の翌日に撮影した写真だが、眉斑の形が異なり、別個体だろう。
6. 2000年5月25日 石川県輪島市

 上面は緑色みが比較的強い。嘴は小さく、メボソムシクイより可愛い顔に見える。なお、この日は3個体を同時に確認した。

 2〜4の写真がおそらく日本で最初の撮影記録であるが、大西敏一氏はこれより先、1998年9月1日、1999年5月26日にすでに観察しており、2001年5月13日にも観察し、さらに2004年5月にも確認されている。次ページに示したように、2005年春期にも観察された。
 このように、日本国内では近年、いくつかの記録があり、分布から考えても日本海側を定期的に通過している可能性がある。中国の北戴河(Beidaihe)で1985年春に行われた調査によると、本種の渡りのピークは他のムシクイ類より遅く5月終わりであり(Williams 1986)、日本での渡りのピークも5月終わりから6月始めではないかと、私は推測している。
 なお、2001年は5月5日にも観察・撮影されたとされているが(森岡 2002)、この記録はおそらくエゾムシクイの誤認である。そのほか、山口県見島での2000年 5/8、2002年 4/25、2003年 5/5の記録を挙げているホームページもあるが、写真等の具体的な証拠や観察記録はない。
 

文献 
Williams, M D.(ed.) 1986. Report on the Cambridge Ornithological expedetion to China 1985. Cambridge Ornithological expedetion to China 1985, North Yorks.

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