野鳥あれこれの部屋画像
2005年3月6日 掲載
2022年4月30日 追記

オオカマキリに捕食されたキクイタダキ
A Goldcrest Regulus regulus predation by a Chinese Mantis Tenodera sinensis

「キクイタダキ」は、頭頂が黄色いことからついた名前。体長約10cmの、日本で最も小さな鳥の一つである。この小さな体で、春や秋には群れをなして海を渡る。2002年11月1日 石川輪島市


 キクイタダキの群れを観察していたら、少し離れた場所がなんだか騒がしい。見ると1羽のキクイタダキがオオカマキリに捕まって、もがいていた。キクイタダキはオオカマキリの前肢に脚をかけて抵抗するが、オオカマキリはキクイタダキの頭をがっちりつかんで離さない。 2000年11月3日石川県輪島市


 他の個体(左上)も集まってきた。中にはオオカマキリの足元をつつくものもいたが、それが「仲間を助けようとしている」行動なのか、単に「危険な外敵を排除しようとしている」行動なのか、それともほかの解釈をすべきなのか、よく分からない。


 キクイタダキとオオカマキリの激しい攻防。オオカマキリに捕らえられたキクイタダキは、時々激しく羽ばたいて、なんとかオオカマキリから逃れようとするが、オオカマキリの力は強く、逃れることができない。


 ついに力尽きて脚を垂らして戦いを放棄したキクイタダキ。

 オオカマキリはキクイタダキの首のあたりに食らいつき、食事を始めた。オオカマキリの大顎には、キクイタダキの羽毛がこびりついている。キクイタダキはすでに死んでいる。

追記 (2022年4月30日)

その後、日本国内で撮影されたカマキリに捕らえられたキクイタダキやマヒワの写真が、インターネット上にいくつか出てきた。これらは私が見つけた範囲では、上記のものと同様、石川県舳倉島で撮影されたものだった。また、アメリカでカマキリがハチドリを捕らえた写真や動画も、インターネット上で見た。

さらに近年、カマキリが鳥類を捕獲した記録をまとめた論文が、アメリカの学術雑誌に掲載された。以下のものである。ここに内容を少し紹介してみたい。

Nyffeler M, Maxwell MR & Remsen JV (2017) Bird Predation By Praying Mantises: A Global Perspective. Wilson Journal of Ornithology 129 (2): 331–344.

この研究ではいくつかの論文データベース、論文検索エンジン、ソーシャルメディア、書籍を利用して、カマキリによる鳥類の捕食事例を収集した。その結果、カマキリによる鳥類の捕食、また捕食の試みについての報告は147件あったが、出版物に報告されたものは全体の3分の1以下で、それ以外はソーシャルメディアサイト(Hummingbird Society, Bird Watcher's Digest, National Geographic, Audubon Society, Discovery Channel, YouTubeなど)に出ていた。また、これらは南極大陸を除くすべての大陸の13か国で報告されていた。

捕食者として確認されたカマキリは9属12種で、一方被食者として確認された鳥類はアマツバメ目(ハチドリ科)とスズメ目の14科24種だった。被食者の鳥類のうち、日本で記録がある種(日本鳥類目録改訂第7版に掲載されている種)は、ヨーロッパコマドリ Erithacus rubecula、マダラヒタキ Ficedula hypoleuca、キタヤナギムシクイ Phylloscopus trochilusの3種である。この論文の表には日本にも分布するキバシリ Certhia familiarisが挙げられているが、本文と引用元の記事の記述から、これはユーラシア大陸には分布しないアメリカキバシリ Certhia americanaだろう。

アジアでの事例は、インドでの1例(マメタイヨウチョウ Leptocoma minima が捕食された例)だけである。この論文に日本での記録が全く掲載されていないのは、日本国内の観察例は、論文として発表されていないことと、インターネット上のものは英語で書かれていないこと、によるのだろう。キクイタダキとマヒワが捕食された例は、ともにこの論文には出ていない。

この論文が報告した記録には、古くは1920年以前のものも少数ながらあったが(全体の4%)、全体の67%は2000年から2015年までの記録がだった。このような記録の増加は、インターネットに写真等がアップされたことと、ハチドリ用の人口給餌場が普及したためとされている。、

カマキリがハチドリを捕食した例は非常に多く、114件が報告されている。アメリカ合衆国では26州において、110件ものハチドリの被食例が報告されている。ハチドリの被食例が多い理由として、以下の3つ挙げられている。1)北米には大型カマキリに力で負けるような世界最小のハチドリ類が生息していること。2)ハチドリ用の餌台を設置したり、ハチドリが好む植物を植えたりすることが一般的によく行われていてハチドリが人に近づき、他の鳥たちよりも捕獲される場面を記録されることが多いこと。3)1990年代に害虫駆除を目的に大型のカマキリが北米全域に放たれ、アメリカ合衆国東部の一部では定着して比較的多く生息していること。ただし鳥を捕食しているのは外来のカマキリだけでは無く、在来種による捕食例もある。

カマキリの鳥への攻撃は、鳥が5-10cmの距離に来ると行われ、鳥を捕まえるとしっかりと保持して摂食を始める。鳥は捕まってから1分から数分で死亡するという観察がある。

記録の内、約3分の2では鳥は頭、頸、または喉を噛まれている。頭に穴を開けて、そこから脳を取り出した事例もいくつかある。

ここでこの論文の記述と日本での記録を、ごく簡単に比較してみよう。

私のフィールドノートや電子ファイルには記録が残っていないのではっきりとは分からないが、私が上記の観察を行った際は、発見してから数分あるいは10分以上経ってから動かなくなったように思う。実は発見時、周囲に誰もいなかったのだが、観察・撮影中に人々が集まって撮影を始めてしまい、鳥を救出するタイミングを逸してしまった。1分よりは長かったと思うが、現場では予想よりは早く死んでしまったという記憶がある。記録が残っていないので比較は難しいのだが、論文の事例よりは多少長く生きていたような気がする。ただし海外でもカマキリに捕らえられてから鳥が死亡するまでの時間を記録した例は1例しか無いようだ。

私の記録やネット上に見られる日本国内での他の記録では、カマキリが噛んだ部位は、本論文と同様である。

私が観察したときには、上述のとおり、他個体が集まってきたが、本論文にはそのような例は記述されていない。論文に出ている鳥類各種の生態を調べる必要があるが、論文に引用されている例では、群れで行動する種が入っていないのかもしれない。また、私は現段階では他個体が集まってきたのは、一種のモビング(偽攻撃)行動では無いかと思っている。ただし、多くのモビングは捕食者に襲われていない状況で行われるが、私は鳥を攻撃していないカマキリ類に対してモビングを行っている鳥を見た記憶が無い。もちろん舳倉島で、何もしていないカマキリ類に対して、モビングを行っている鳥を見たことも無い。すでに鳥が捕食されている状況でのモビング行動に、いったいとういう意味があるのだろう。

本論文を読んでから、私は自分の観察結果についていくつか考えることがあった。しかし、当時私は自分が観察したことを、単なる珍しいニュース性のある現象という程度にしか考えていなかったので、観察が不十分でしかも写真以外の記録を残しておらず、詳細が全く分からなくなっている。今になると、それがいかにも残念である。


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