日本鳥学会2004年度大会参加報告


 日本鳥学会の2004年度大会は、9月17日から20日まで、奈良女子大学で行われました。私は18日(土)から参加しました。発表はたくさんあって、全部はとても紹介しきれません。印象に残った発表はたくさんあるのですが、涙を飲んで、一部だけご紹介しましょう。そのほか、シンポジウムや自由集会もあったのですが、割愛します。
 なお、詳しくは講演要旨集を入手して、それをご覧ください。以下の記述はもちろん正確であるよう心がけていますが、かと言ってそのまま鵜呑みにされても、ちょっと困ります。

1.口頭発表

 口頭発表の会場は二つあるので、どちらか一方の発表しか聞くことができません。聞きたい発表が連続して別の会場で行われると、移動しなければならず、一つの発表が終わると、ぞろぞろ人の出入りがあります。

 発表時間は12分、質疑応答が2分30秒となっていますが、発表が長くなりすぎて質疑応答ができなくなってしまう人も時々います。私が20年ほど前、共同研究をさせていただいた某研究所のOさんは昔から発表が長くなるクセがあって、某学会でOさん、私の順で発表したとき、Oさんの質疑応答時間がなくなってしまい、共同研究者の私の質疑応答といっしょに受け付けたことがありました。そうしたら、会場の後ろの方にいたOさんと質問者との応答が長くなってしまい、私は壇上で何もせずに「ぼけーっ」と、しばらく、さらしものにされてしまいました。Oさんは今回も質疑応答の時間がなくなっていて(早口なのに)、「ああ、昔と変わらない」と思いました。そういう場合、どうしても質問がしたい人は、個別に発表者をとっつかまえて、質問をしたりすることになります。

 口頭発表の初日18日は、片方の会場では主に猛禽類の研究発表が行われました。猛禽類は環境アセスメントの際に問題になることが多いので、コンサルタント関係者の参加が多く(たぶん)、会場はいつもいっぱいです。私もまあ、コンサルの会社にいるのですが、大会には自費で参加しているので、「ぎゅうづめの会場なんかいやだ」ということで、猛禽の発表はパスしています。ははは。

○現在、南大東島で繁殖しているウグイスの分類学的位置づけ
梶田 学・高木昌興・松井 晋・山本義弘・山岸 哲

 ウグイスの亜種ダイトウウグイスは、絶滅したと考えられていましたが、近年、沖縄島で再発見されています。かつてこの亜種が繁殖しているとされていた南大東島では、1922年に2個体が採集された後、全く確認されていないため、絶滅したと考えられていましたが、2003年4月にウグイスの繁殖が確認されました。このウグイスが「ダイトウウグイス」であるかどうかは、誰でも興味を持つところでしょう。
 今回の発表では、外部形態とミトコンドリアDNAの調査により、現在、南大東島で繁殖するウグイスは亜種ダイトウウグイスではないと考えられ、羽色は亜種ウグイスに、計測値はトカラ列島の中之島の個体群(亜種不明)に一致することが明らかにされました。また、DNA分析では亜種ウグイスともっとも近縁となりました。結論として、ここのウグイスの分類学的位置は不明ですが、本土から侵入した後に形態的な分化を生じた可能性もあるということです。
 ダイトウウグイスは昔、南大東島で繁殖していたとされていますが、本当にそうなんでしょうか。現在、この島で繁殖しているウグイスはダイトウウグイスが絶滅した後、新たに侵入したものなのでしょうか。いろいろ、疑問が出てきますが、この問題は亜種分化の過程を知る手がかりになりそうで、興味深いです。
 それから、中之島は私自身、行ったことがあり、ウグイスも多数確認しましたが、亜種不明とは知りませんでした。そうと分かっていれば、もっとよく観察していたのに・・・。でも、野外観察では違いは良く分からないでしょうね。今年、中之島に近い平島にも行きましたが、そのほかの島々のウグイスはどうなんでしょうね。石川県の舳倉島でも近年になってからウグイスが多数繁殖するようになったようだし(ただしここ3年ほどは薬剤散布の影響があるようだ)、こういうのはどうなっているんでしょうか。
 ほかにも口頭で興味深い発表があったのですが、メモを見てもなんだかよく分かりません。宿で整理しておけばよかった、と後悔しています。

○ニホンライチョウの遺伝的多様性と集団間の遺伝的距離
中村浩志・所洋一・四方田紀恵・森口千英子・馬場芳之

 ミトコンドリアDNAのコントロール領域を用いた、ニホンライチョウの遺伝的解析に関する発表です。これによると、「火打山、白馬周辺、立山周辺、乗鞍岳、御岳」のライチョウは遺伝的に近い距離にありますが、これらと南アルプスのライチョウは遺伝的距離が遠く、別の集団であることが明らかになりました。まあ、常識的な結果でしょう。
 また、ハプロタイプ多様度(分かりにくい言葉でしょうが、勘弁してください)は、白馬周辺と乗鞍岳では高いのですが、立山周辺、御岳、南アルプスでは低い結果になっています。
 南アルプスのライチョウは20年前は720個体いたのですが、最近は減少が著しく、絶滅が懸念されます。ライチョウの移動能力については、長距離のものとしては約20km(八ヶ岳の例)や約10km(飯綱山の例)の事例がありますが、あまり長距離移動をするような鳥ではなく、個体数がある程度まで減少すると供給が無いので、復活は望めないでしょう。過去、八ヶ岳、白山、中央アルプスではライチョウが絶滅しており、同じ道を歩ませないための保全対策が今後の課題でしょう。

○完新世最温暖期における鳥類相と縄文人の鳥類利用
江田真毅・小池裕子

 完新世最温暖期は、日本では縄文時代の前期(約6,300年前〜5,000年前)にあたり、年平均気温は現在より約2〜3度高かったと推定されています。
 この発表では、縄文時代前期の遺跡から出土した鳥骨の同定を行っています。70遺跡から出土した鳥は21科に及び、カモ科、ウ科、キジ科の骨は非常に多くの遺跡から出土しています。したがって、これらは遺跡を作った人々の周囲に多数分布していたと考えられます。反対にペリカン科、コウノトリ科、トキ科、ハヤブサ科、フクロウ科の出土は少なく、当時の人々の活動範囲に少なかったか、あるいは狩猟対象になりにくかったと考えられました。
 面白い出土としては、神奈川県小田原市の遺跡から出土したペリカン科、、神奈川県小田原市、石川県田鶴浜町などから出土したツル科、石川県田鶴浜町から出土した大型フクロウ科(現在のシマフクロウより大きい)などがあります。

○ヤンバルクイナの生息域の減少と絶滅回避の方法
尾崎清明・馬場孝雄・米田重玄・金城道男・渡久地豊・原戸鉄二郎

 2003年に鳴き声を再生して反応を確認する方法によって行われた調査結果です。その結果、分布域の南限は、西側では前回(2000年)とほぼ同じですが、東側ではかなり北上したことが分かりました。これを1985年と比べると、生息域が約40%減少していることになります。講演要旨には出ていませんが、近年ヤンバルクイナの分布が島状化しているようです。
 マングースの捕獲調査でも2003年に従来あまり捕獲されなかった東側で捕獲が見られるようになっており、ヤンバルクイナの調査結果と一致しています。ただし、ヤンバルクイナに対してはカラスによる捕食もあるようです。
 ヤンバルクイナの絶滅を防ぐには、捕食者駆除、フェンスによる隔離、人工増殖技術の確立などが急務とされました。しかし、これらを実行するのはなかなか容易ではなさそうです。たとえば、捕食者駆除については、反対運動も多いのです。

○恋するズグロミゾゴイ
川上和人・藤田祐樹・神澤良子・川村七弥・村上美奈子

 ズグロミゾゴイの繁殖初期の3月中〜下旬のさえずり記録(4月にはさえずりが減少する)による調査結果です。従来、ズグロミゾゴイは石垣島、西表島、黒島の3島にのみ生息するとされていましたが、今回の調査では八重山の10の島でさえずりが確認され、繁殖の可能性が出てきました。従来分布が狭いとされていたのは、十分な調査が行われていなかったためと考えられます。
 なお、個体間距離は250mくらいで、これは50年前のミゾゴイの個体間距離(約200m。現在は約3,000m)に近い数字です。ズグロミゾゴイの生息に対する影響としては、オサハシブトガラスによる卵捕食のほか、島によっては放鳥されたクジャクとの競合も懸念されるとのことです。

○外洋性ミズナギドリ目海鳥はなぜ初繁殖が遅いのか
岡 奈理子

 外洋性のミズナギドリ目の鳥の初繁殖年齢は、平均6〜7歳で、10歳を越えるものも少なくありません。これがなぜなのか、発表者が長年研究してきたハシボソミズナギドリとオオミズナギドリを例に挙げて考察した発表です。
 ハシボソミズナギドリ、オオミズナギドリとも、雛を育てている最中の親鳥は、定期的に遠くまで飛んでいき、餌を探します。子供に給餌しながら、片道1,000キロもの旅行を頻繁に繰り返すこと、しかも、餌生物は水温の季節的な変動で分布域を変えるため、それらの分布の変化を習熟する必要があります。つまり、
「限られた持ち時間の中でのローコスト移動」
を体得しなければならないことが、初繁殖が遅い一つの理由と考えられます。要するに、「要領よく餌をとれなけりゃ子供は育てられないし、そうなるには経験がいる」ということなのでしょう。

2.ポスターセッション

 大会2日目と3日目の18日(土)と19日(日)にポスター発表が行われました。それに先駆けてポスタートークも行われ、それぞれの発表の宣伝(?)が、発表者の口からなされました。
 ポスター発表では、発表者とじかに会話することができ、質疑応答の時間が口頭発表のように限られていないので、突っ込んで質問することができます。場合によっては、名刺交換などをして、研究者とお近づきになることもできます。そのかわり、人々が多く群がっていると、発表内容をなかなかじっくり見ることができず、「あ、この発表はあとでよく見よう」と思っているうちに、終わってしまって、ポスターを見たり質問したりすることができなかった発表もありました。
 ここでは、私自身が発表者の方とじかに会話することができた発表を、ご紹介しましょう。

○日本を通過するメボソムシクイの繁殖集団の特定と、西表島における越冬個体の発見
斎藤武馬・西海功・茂田良光・上田恵介

 私が以前から注目している研究の一つです。詳細はムシクイ研究室の方で紹介する予定なので省きますが、今回の発表では西表島で発見された越冬個体がDNA解析により、亜種アメリカコムシクイであることが判明したことが興味深いものでした。写真も展示されていましたが、一見して変なメボソだったので、「これは何ですか」と質問したら、西表島で捕獲されたアメリカコムシクイでした。どこが変と感じたかと言うと、嘴がきゃしゃで、眉斑の前半が先細り(写真写りのせいかもしれない)に見えたことです。野外でもひょっとするとある程度識別可能かと思いました。
 それから、最近「ジジロ、ジジロとさえずるメボソムシクイはオオムシクイである」と、ときどき言われているようですが(私自身、そんなことを言っちゃった事があるような気がします)、この言い方は正確ではないようです。詳しくはいずれムシクイ研究室の方で書きますが、オオムシクイと考えられる個体群は「ジジロ、ジジロ」と鳴くけれども、そのほかにもそういう鳴き方をする個体群があるということです。

○餌を介して猛禽類が汚染されている:食物連鎖のエコトキシコロジー
安田雅俊・山田文雄・川路則友・大河内勇・山崎晃司

 猛禽類のような高次消費者は、生物濃縮のために有害化学物質の影響を受けやすいと言われていますが、具体的な研究事例は少なくとも日本ではほとんどありません(海外ではあるでしょうが)。最近、同僚に質問されてちょっと調べたのですが、カワウでの研究事例がある程度でした。
 この発表では各種の生物(鳥類以外を含む)のほか、土壌、植物の中に含まれる残留性有機汚染物質の量を調べたものです。
 その結果、ダイオキシン類では、カワウとオオタカの体内濃度は、調査した全生物中でもっとも高いものでした。また、哺乳類ではニホンイタチやキツネのような高次捕食者のほか、アカネズミやアズマモグラなどで高い結果が出ました。
 DDT類はすべての生物、土壌試料から検出されており、魚食性鳥類と猛禽類で高く、DDE(DDTが体内に取り込まれてから代謝されて蓄積される物質)がその99%を占めました。DDTは現在、製造禁止になっていますが、過去には土中に埋め立て廃棄されたこともあったそうで、そのようなDDTが生物に取り込まれている可能性があるようです。
 このような研究は、生物の研究者と化学分析を行える人が共同で行わなければならず、学際的なものなので、なかなか実施されにくいそうです。また、試料に用いる猛禽類は、生きているものを採集するわけにはいかないので入手が難しく、そのことも研究を難しくさせているようです。なお、この研究は論文発表される予定とのことでした。

○ユリカモメ Larus ridibundus の外部形態における性的二型性
有馬浩史・須川恒・大西尚樹

 ユリカモメの外部形態で雌雄の判別ができないか、という研究です。ヨーロッパのユリカモメについては、すでに全頭長と嘴高を使った判別関数が提示されていますが、日本のユリカモメでは雌の的中率が良くありません。そのために判別関数の改良を行ったのが、この研究です。改良の結果、判別関数による雄の的中率は100%、雌の的中率は92.3%となりました。ヨーロッパの関数での的中率が悪かったのは、日本に渡来するユリカモメがヨーロッパのものより大きいためと考えられます(亜種は同じです)。判別関数はポスターでは発表されていましたが、講演要旨では発表されていません。いずれ論文になることを期待します。
 ちなみにユリカモメの雌雄は、野外でも近距離で見れば(特に夏羽)、ある程度分かるように思います。いずれ、写真入りで紹介したいと思っていますが・・・。

○西日本地域におけるカラスバト Columba janthina の遺伝的構造
関伸一・高野肇・小高信彦・遠藤晃・嵩原健二

 主として西日本各地(五島、トカラ、沖縄、先島)で採集した脱落羽毛のミトコンドリアDNAコントロール領域の分析結果です。
 沖縄、トカラ、五島では、遺伝子分化係数が低く、地域間でかなり遺伝的交流があることが示唆されました。つまり、たがいに行ったり来たりして、つがいになっているということです。ある島で減少すると、別の島で増加するという例もあるそうです。私がよく行く石川県の舳倉島では、カラスバトを時々見ますが、これはそうした移動途中のものなのでしょうか。どこから来て、どこへ行くのか分かりませんが。
 先島諸島(亜種ヨナクニカラスバトとされる)の試料からは2つのハプロタイプが認められましたが、これらはいずれも沖縄〜五島地域で同じハプロタイプの個体が確認されています。と、いうことは先島諸島の個体群は沖縄〜五島のものと同じ亜種の可能性が出てきた、ということのようですが、今回の試料には与那国島のものは含まれていません。実は、与那国島以外の先島の各島のカラスバトがヨナグニカラスバトとされる根拠は不明とのことです。したがって、与那国島のものだけが別亜種(ヨナクニカラスバト)になる可能性もありそうです。
 なお、今後は色々な地域の試料を増やしてさらに分析を進める予定とのことで、カラスバトの羽を拾ったら、是非提供してくださいとのことでした。

○島嶼に離散分布するウチヤマセンニュウの保全遺伝学的解析
西海功・永田尚志・中村豊・藤田薫・樋口広芳・斎藤武馬・金昌會

 ウチヤマセンニュウとシマセンニュウのミトコンドリアDNAの塩基配列を分析し、保全遺伝学的な検討を行った発表です。
 ウチヤマセンニュウのうち、韓国東部の鬱陵島とロシア沿海州の個体群は、遺伝学的に他の個体群とは別の系統群であることが判明しています。この個体群は伊豆諸島などのウチヤマセンニュウに比べると茶色みが強く、嘴がやや小さいなどの形態的な特徴もあります。この個体群はハプロタイプ多様度が低く、塩基置換率は他地域の3分の1から5分の1程度であり、ウチヤマセンニュウの他の個体群より、さらに保全の優先度が高いと考えられます。
 また、鬱陵島以外の個体群(韓国南西部、九州北部・西部、九州南部・東部、伊豆諸島)の中では、伊豆諸島の個体群は固有の亜系統群を持つもので、保全の優先度が高い、という結果が出ています。
 私がよく行く石川県の舳倉島ではシマセンニュウの記録はありますが、ウチヤマセンニュウの記録はありません。しかし、沿海州の個体群なんかは記録されそうですね。シマセンニュウと混同されている可能性はありそうです。

→鬱陵島のセンニュウは、こちらのサイトに写真入で紹介されているので、参考までに・・・(英語です)2004.10.24追記
A New Species of Middendorff's/Styann's-type Locustella suspected, breeding on Ulleung Island.
Research being conducted to identify relationships to other Locustellas.

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