日本鳥学会2004年度大会参加報告

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 日本鳥学会の2007年度大会は、2007年9月21日から25日まで熊本大学黒髪キャンパスで開催されました。日程は以下のとおりです。

9月21日:自由集会、各委員会
9月22日:口頭発表、ポスタートーク、ポスター発表、自由集会
9月23日:ポスター発表、総会、大会シンポジウム、懇親会
9月24日:ミニシンポジウム、口頭発表、自由集会
9月25日:エクスカーション

 私は最終日のエクスカーションには参加しましせんでしたが、21日から24日までみっちりと参加しました。こんなにみっちりと参加したのははじめてのことでした。今までさぼっていた総会にもはじめて参加し、研究発表も行い(ポスター発表)、さらに委員会にまで参加してしまいました。

 さて、今年度大会は、会場が熊本県という東京、大阪などの大都市からは離れた場所であったため、参加者数がすくないのでは、という心配も関係者の方の間にあったらしいですが、実際には発表数は過去最多だったようです。参加者数もまずまず多く、盛況であったと言えると思いました。昨年の岩手大学の大会の時には、学会会場でコウライウグイスを見つけたので、今年も何か渡り途中の変な鳥を見つけてやろうなどとたくらんでいたのですが、忙しくてそれどころではありませんでした。

 以下には一部の発表だけご紹介します。ご紹介する発表の選定には、これまでと同様、すぐれていたとか、批判すべきものであるとか、というような特別な理由はありません。また、学会発表は学会員ならば誰でもできるものであり、審査などは特にありません。学会誌に掲載されている論文は、複数のレフェリー(査読者)と編集委員のチェックを経て、多くの指摘を受け、充分に検討された後に発表されたものであり、信頼性の高いものですが、学会発表はそのようなチェックを受けていません。だからと言って発表のレベルが低いというわけではもちろんありませんが、論文よりは信頼性が低い点は知っておいたほうが良いと思います。

 学会の発表に興味を持たれたら、是非2008年度大会に参加してみてください。今回の総会で、学会員以外の人でも、研究発表を見聞きできることがはっきりと決定されました。2008年度大会は東京の立教大学で開催されます。

 なお、今回の発表の内容の詳細については講演要旨集を入手してください(入手方法等については日本鳥学会のホームページをご覧下さい)。
 以下の記述はもちろん正確であるよう心がけていますが、私が思い違いしている部分もあるかもしれません。要旨集に書かれておらず、口頭で発表されたものを私がメモしたものについては、特に信頼性が低いので、ことさら注意して、あやふやなことはここに書かないように努めましたが、間違いがありましたら、申し訳ありません。ご一報くださると幸甚です。すぐさま訂正または削除します。

1.口頭発表

 口頭発表の会場は二つあるので、どちらか一方の発表しか聞くことができません。これは今までの大会と同様です。聞きたい発表が連続して別の会場で行われると、移動しなければならず、一つの発表が終わると、ぞろぞろ人の出入りがあります。

○波照間島のカラスは何者か? -mtDNAコントロール領域の解析-
山崎剛史、上開地広美

 日本鳥類目録改訂第6版(日本鳥学会 2000)によると、日本国内では4亜種のハシブトガラスが記録されています。対馬に留鳥として生息するチョウセンハシブトガラス Corvus macrorhynchos mandshuricus、北海道、南千島、本州、佐渡、隠岐、四国、九州、、五島列島、屋久島、種子島、伊豆諸島、に留鳥として生息し、小笠原諸島と大東諸島でも記録されているハシブトガラスC. m. japonensis、奄美諸島、琉球諸島(沖縄島、座間味島、久米島、宮古島)に留鳥として生息するリュウキュウハシブトガラスC. m. connectens、そして八重山諸島(石垣島、西表島、竹富島、小浜島、黒島、新城島、波照間島)に留鳥として生息するオサハシブトガラスC. m. osaiです。
 2006年度大会では、「波照間島のハシブトガラスは他の2つの島のハシブトガラスに比べて、上顎の長さや幅が有意に大きいことが分かったものの、DNA分析は実施されていない」という発表がありました。 今回の発表では、ミトコンドリアDNAコントロール領域を用い、波照間島、西表島、石垣島、東京のハシブトガラスを相互比較し、検討しています。また、外群として、クバリーガラスが使われました。その結果、石垣島と西表島のハシブトガラスは遺伝的に均一であるのに対し、波照間島のハシブトガラスは遺伝的に多様であることが分かりました。波照間島のハシブトガラスはDNAの分析結果から、オサハシブトガラスと同一のハプロタイプと昔に分岐した固有のハプロタイプが両方が存在し、その理由として、もともとオサハシブトガラスとは別系統のカラスがいた所に最近になってオサハシブトガラスが侵入し、交雑が進行した可能性があるようです。

○阿蘇のコジュリンは、本州のコジュリンと同じか?
永田尚志、田中忠

 大会会場に近い阿蘇に生息するコジュリンの調査結果です。
 形態では阿蘇のコジュリンは、利根川流域に生息しているコジュリンと翼長、ふ蹠長にはほとんど差がないものの、阿蘇のコジュリンのオスは頭部の眉斑がある傾向があるそうです。頭が真っ黒にならない可能性もあるようです。ただしサンプル数が少ないので、有意差は認められていません。また、さえずりも少し異なり、阿蘇の方が周波数が高い傾向があるようです。
 さらにミトコンドリアDNAのD-Loopの一部の塩基配列を比較した結果、本州各地のハプロタイプは混ざり合ってしまって区別ができないのに対し、阿蘇の個体群は特異的なハプロタイプを持っていることが明らかになりました。
 阿蘇のコジュリンは個体数が少なく、しかも本州のものとは異なる独特のハプロタイプを持っていることから、特別な保護プログラムが必要と考えられると結ばれています。

○ミトコンドリアDNAによる日本産オオタカの遺伝的構造
浅井芝樹、阿子島大輔、茂田良光、山本義弘、百瀬浩 

 オオタカAccipiter gentilisは環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧種に指定されています(レッドデータブックとは異なっていますので、ご注意ください。最近再検討されて、ランクの見直しがされています)。しかし日本産オオタカの遺伝的構造に関する研究は従来、ほとんどなかったため、ミトコンドリアDNAコントロール領域を増幅するPCRプライマーの開発を目的として、オオタカのミトコンドリアDNAの全塩基配列を明らかにしたのが、この研究です。
 全国各地から集められたオオタカのコントロール領域の一部の塩基配列を調べたところ、ハプロタイプ多様度はアメリカのユタ州の研究結果と同程度で、きわめて低いというものではありませんでした。また2つのハプロタイプが全国的に見られ、遺伝子流動を阻んでいる地理的障壁は見出されなかった、とのことです。ただし全国的にみられる2つのハプロタイプの除いた残りのハプロタイプは関東で見られており、すなわちハプロタイプ多様度を上げているのは関東地方のオオタカの存在によると言えるでしょう。その理由については分かっていないようですが、非常に興味深いことです。
 

2.ポスター発表

○イイジマムシクイの非繁殖地における記録と、渡りと越冬に関する考察
渡部良樹、中道暁美、小林靖英、小倉 豪、Fergus Crystal

 いきなり私自身の発表内容について、書いてしまいます。今回、多くのポスター発表があったのですが、自分の発表が忙しくて、ほかのポスター発表を見聞きする時間がほとんどありませんでした。ポスターを見に来てくださった方がそれだけ多かったというわけで、まずは良かったと思う反面、ポスターがごちゃごちゃしていて見にくい、とか、二つに分けるべき内容をむりやりひとつにまとめてしまったので、分かりにくくなってしまった、というような色々な反省点もあります。
 イイジマムシクイは世界中で東京都伊豆諸島と鹿児島県トカラ列島の一部の島々でだけ繁殖する鳥ですが、一部の繁殖地では非常に多くのイイジマムシクイが、春から夏にかけて見られ、さえずりが聞かれます。環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類に指定され、天然記念物にもなっています。しかし越冬地がどこにあるのかはよく分かっておらず、また渡りの実態について研究されたことはほとんどありません。つまり繁殖地以外の場所での生息状況については、ほとんど分かっていません。しかしイイジマムシクイはここ数十年減少傾向にあり、最近の三宅島の噴火も個体数減少に影響を与えていることは間違いないと思われますが、越冬地や渡り途中の地域の環境悪化の影響を受けている可能性もあります。したがって、繁殖地以外の場所での生息実態を知ることは、非常に大切なことなのです。
 今回私たちは、2つの調査を行いました。ひとつは文献やネット上での呼びかけ、個人へのアプローチなどによる、繁殖地以外での記録の収集(情報収集調査)、もうひとつは現地調査です。
 記録のとりまとめでは、季節区分を4つにしました。(1)春季前期、(2)春季後期、(3)秋季、(4)冬季、の4区分です。(1)と(2)は4月10日以前か、4月11日以降か、で分けました。これは伊豆諸島三宅島では4月10日までに多くの個体が渡来する、という情報に基づいたものです。具体的には、
(1)春季前期:3月から4月10日まで
(2)春季後期:4月11日から5月まで
(3)秋季:8月から10月まで
(4)冬季:11月から2月まで
となっています。
 情報収集調査では、1921年から2007年までの期間に北は新潟県、南はフィリピンまでの地域で70件102個体の記録が得られましたが、6月と7月の記録は得られませんでした。また、日本列島本土部では茨城県と千葉県以西の太平洋沿岸域に記録が集中し、沖縄県や台湾での記録も比較的多く得られました。
 春季は、前期に比較し、後期に5.5倍の件数と8.5倍の個体数が得られました。三宅島への渡りは前期の間にほとんど終了してしまうと考えられることから、九州、本州本土部を通過する個体の多くは伊豆諸島へ渡来する主群ではなく、多くは太平洋を越えて伊豆諸島の繁殖地へ到達するものと推定されました。また、春季の記録は大きく分けて2地域に集中していました。九州南部-四国西部地域と関東・東海地域です。この2地域で記録されている個体のうち、前者はトカラ列島、後者は伊豆諸島の繁殖地を目指して飛翔した個体がなんらかの理由で繁殖地を飛び越えて行き過ぎたか、あるいはやや方向がそれて本土に到着した可能性があると考えられます。
 秋季は、台湾以北、東京都(本土部)までの地域から22件34個体の記録が得られました。日本列島本土部の記録は、春季同様、太平洋沿岸部に集中していますが、春季ほど分布の偏り(九州南部-四国西部地域と関東・東海地域の2地域)は見られません。私は大会発表の段階では、秋季も伊豆諸島の個体の多くは海上を経由して越冬地に向うものと考えましたが、その後新たに入手した情報を加えて再考察した結果、日本列島太平洋沿岸部を、多くの個体が通過しているものの見逃されているか、上空を通過しているために見つけることができない、という可能性も考えられると思うようになりました。
 また、現地調査から、鹿児島県大隅半島では毎年秋に定期的にイイジマムシクイが複数通過していることが分かっています。1日あたりの記録個体数の最大数は2003年9月4日の稲尾岳での16個体ですが、イイジマムシクイの生息可能環境は大隅半島の広い地域に及んでいるので、全域では相当数が通過しているのではないかと思われます。この地域のイイジマムシクイがどこからやってきているのかは、分かっていません。
 冬季は沖縄島から台湾、フィリピンにいたる地域で記録が得られていますが、標本採取されているものを除くと、写真や録音などの客観的証拠が残っておらず、今後のより詳細な調査が必要です。沖縄県での記録は個体数、頻度とも少なく、主要な越冬地は台湾以南に存在するものと考えられますが、これも今後の詳細な調査が必要です。また、伊豆諸島では過去に冬の記録もあるので、繁殖地にごく少数が越冬している可能性もあります。

 今回の調査でいろいろなことが分かってきましたが、また同時に不明点も明らかになりました。今後も調査を継続し、本種の非繁殖地での動態を明らかにしていきたいと考えています。

 終わりに、調査にご協力くださった多くの方々に厚く御礼申し上げます。

 


 情報集調査結果(春季前期)


情報集調査結果(春季後期)


情報集調査結果(秋季)


情報集調査結果(冬季)

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